「木」から受ける生命力と思いやり

 ハリケーン・リタに備えた避難が始まっている。カトリーナ*1に追い討ちをかけて、今度のリタ。被災地では新学期が1か月延長されたが、これじゃあ10月に入っても難しいんじゃないか。当地では基地関連の住宅に避難民が入居し始めた。主人の小学校でも受け入れ態勢は整っている。
 一瞬にして家財、仕事すべてを失うとはどんなことか。失業保険申請者が21万人を超えた惨事は、命に別状はなかったとしても大きな傷痕を残す。被災した子どもたちに絵本を読むとしたら何がいいだろう。本棚を眺めて選んだ2冊はどちらも「木」に関わるものだった。もっと適した絵本はたくさんあるのだろうが、とりあえず今、わたしの目に留まったのはこの2冊。
 小さな子どもたちには、ニック・バトワースの『After the Storm (Percy the Park Keeper)』(邦訳『あらしのあとで (世界の絵本ライブラリー―パーシーとどうぶつたちの絵本)』)。公園の管理・整備係を務めるパーシー・シリーズの1冊。嵐の後、動物たちの住みかだった大きな樫の木が根こそぎ倒れてしまった。「家がなくなった」と嘆く彼らを励まし、新しい家を探しに出かけるのがパーシー。リス、ウサギ、アナグマハリネズミ、キツネ、フクロウら、みんなもいっしょに着いて行く。……お話はそれだけなのである。それだけなのだけれど、この絵本の魔法はそのイラストに宿る。バトワースの絵本は、一言でいうと普通なのだが、その普通の中に愛情がこもっていて美しい。丁寧な水彩画は秋の透き通った空気をしんみりと伝え、木々の彩りで目を楽しませてくれる。動物たちの表情は、無垢でかわいい。凝った展開ではないけれど、そういう絵本が心に染みるときがあるんじゃないか。この絵本は息子の誕生祝いに大叔父夫妻からいただいたものだったが、お話が地味なので本棚に眠っている時間が多かったように思う。でも、ここというときに心の慰めになる絵本のような気がしている。激変、混乱、不安……もしかするとカオスと化している心的状況には、優しい絵本が1番だ。付録のポスターは絶品で、動物たちが新しい木の家で幸せそうにしている姿が愛しい。悲しみが嬉しさに変わる躍動感が希望につながるのでは。気候の異なる北部地方を舞台にした英国の絵本ではあるけれど。
 2冊目は少し年齢が上の子どもたち向けに、シルヴァスタインの『The Giving Tree (Rise and Shine)』(邦訳『おおきな木』)。自分を与え続けた1本の「木」の話である。受け取るのは1人の男で、受け取った期間は彼の幼い頃から年老いるまでの長きにわたる。どんな状況にいても必ず与えてくれる存在のあることを請合ってくれる絵本――そういう信頼感が得られることで、気持ちが落ち着く絵本じゃないかと感じた。ちょっと宗教的になるが、この「木」は「神」のような存在である。
 2冊の絵本から、木は生きる力、生活の象徴だとあらためて感じた。(asukab)

  • 小さな子どもたちに

After the Storm (Percy the Park Keeper)

After the Storm (Percy the Park Keeper)

  • 年齢が上の子どもたちに

おおきな木

おおきな木