月光の下、トラと踊る

 トラって、紳士のイメージなんだろう。『おちゃのじかんに きた とら*1での印象もそうだった。同じネコ科でも、華やかな百獣の王ライオンとは明らかに違う。静かにわが道を行くような落ち着いたイメージである。他の大きな動物、たとえばカバやゾウは控えめでも、なぜか思慮深い役柄には当てはまらない。やっぱり頼れる紳士はトラになる。ユーモアだって、しっかり備えている。
 作者のイメージもそうだったのだろうか。『The Dancing Tiger』では、大きくてやさしいトラが登場する。このトラは、真のジェントルマンである。柔らかい満月の光を浴び、森で女の子とダンスを踊るのだ。とても楽しそうに。女の子の一人称は、そんな魔法がかった一夜を夢のように物語っていく。
 夜気に流れるゆっくりとした時間は四季の風景を通しても表され、ほんのりため息がもれる。詩も絵もきれいで、ページごと子どもの清らかな気持ちがさらに純度を高めていくんじゃないかと感じられるほど。後半のおばあちゃんと孫娘の姿が、自然体で美しい。穏やかな詩と安らぎいっぱいの絵が、時代を越えたイマジネーションに昇華する作品である。大人もいっしょに懐かしさが味わえる。
 『Bebop Express*2で、スティーブ・ジョンソン&ルー・ファンチャー夫妻のイラストに魅せられて以来、彼らの名前には敏感になっていた。たとえテーマは異なろうと、厚塗りの温かい風合いが安堵感を与える作風に変わりはない。踊るトラと女の子の姿を見て、ますますファンになる。(asukab)

  • わたしが手にした米国版

The Dancing Tiger

The Dancing Tiger

  • 満月を背景に踊る表紙は英国版

The Dancing Tiger

The Dancing Tiger