戦争の惨禍と深い愛『how i live now』by Meg Rosoff 読書ノート

 週末読書。『How I Live Now (Michael L. Printz Award Book (Awards))』(邦訳『わたしは生きていける』)は戦争が題材と聞いていたので、てっきり第2次世界大戦を背景にした小説かと思っていた。でも、違った。これは今、米国やヨーロッパが戦時下に置かれたらどうなるかを生々しく伝える、衝撃の物語である。ノンフィクションや歴史フィクションであればどこか他人事のようになり、これほど深く引き込んでティーンエイジャに「戦争」を語ることはできなかったんじゃないか。本書は、共感を呼ぶ愛と憎しみのストーリーがあればこそのリアルさで、テロ行為、戦争の惨さを描き切る。
 継母に嫌悪を抱く主人公のデイジーは15歳の春、英国に住むいとこと暮らすためニューヨークを後にする。ヘン伯母さんは、ロンドン郊外の古い農場に、16歳を筆頭にデイジーと同年代の子どもたち4人と暮らしていた。9歳になる末っ子の女の子パイパーはデイジーを姉のように慕い、2人はたちまち親しくなる。豊かな自然と動物たちに囲まれた生活は、継母への反抗から拒食症だったデイジーの心と体を少しずつ癒し始めた。そして、彼女は1歳年下のいとこエドモンドと深い恋に陥る。
 ときは4月。国際情勢が危ぶまれる中、死者7千人とも7万人とも言われる爆破事件がロンドン駅で起きた。伯母はオスロに仕事で出かけた直後で、家には未成年の子ども5人が残されただけ。ロンドンの都市機能は完全麻痺の状態だが、農場では戦争勃発はまだ別世界のこととしか思えなかった。けれども、その余波は、少しずつ彼らの生活にも形として現われる。現状把握を困難にするデマが横行し、生活物資が不足し始める中、農場には兵士たちが訪ねてくるようになった。戦争は、デイジーたちの生活を一変させる。
 エドモンドへの愛、そして戦争――。デイジーの語りが冷静で客観的であるだけに、どの場面でも情景のイメージは鮮明に浮かび上がる。のどかな農場生活や戦時下の生活描写には15歳の声が織り込まれ、今を生きる10代読者の胸に深く刻まれるだろう。デイジーとパイパーの生死をかけたサバイバル生活には、凄惨な光景が含まれる。自分の生活には無関係と思われがちな「戦争」は、現実となって映し出される。
 間接話法と直接話法を切り替え、時の流れを巧みに表現した手法に感服した。最後は涙。戦争が人間に与えるダメージを考えずにはいられない。2作目が執筆されるということで、戦争のもたらす惨禍と深い愛を描く大作になる予感がする。(asukab)

How I Live Now (Michael L. Printz Award Book (Awards))

How I Live Now (Michael L. Printz Award Book (Awards))