自然への畏敬

 『The Storm』は、黒留袖のような表紙のイラストに引かれた絵本。風、空、波の描かれ方が象徴的で、自然への畏敬の念がストレートに表れている。ストーリーは、海辺の家に住む男の子が体験する嵐の一夜をわかりやすく詩的に描くのみ。でも、自然を愛する人には大切な1冊になる気がする。
 何度開いても、イラストがいい。水彩とアクリルを合わせたメディアで、(人間よりも)自然の描かれ方に魅力がある。構図を巧みに利用した風や波のうねりが、シンプルでドラマチックなのだ。これって、日本画の画法? この作家は絵だけでなく物語執筆も多くこなしているので、目標にしたい1人として覚えておこう。絵に力があるからからこそ、文章にも艶があるのだろう。芸術家って総じてそういうものだ。
 子どもたちと読んだのだが、わたしと同様絵に魅せられていた。干潮を見て息子が思わず「津波がくるよ」と一言。半ばほど、見開きにまさに津波のような高波が、強く、不気味に、でも美しく描かれるページがある。思い起こしたイメージは、言うまでもなく東南アジアを襲った津波被害のこと。人知の及ばない熱い原始の鼓動を再び意識した。男の子がつぶやく冒頭の"All this is mine!"と最後の"All this is yours,"に、自然と向き合う際に忘れてはならない姿勢が伝えられる。(asukab)

The Storm

The Storm