手のなかのすずめ

 ドイツの絵本『手のなかのすずめ』を息子と読む。よく耳にしていたタイトルなのでワクワク。影のある表紙のイラストにも興味をそそられた。
 小さな男の子ティムがお母さんといっしょに買い物に出かけるお話は、いたって平明である。でも、読者を引き付ける絵本の特徴は何気なさの中に感性を揺さぶる要因をたくさん隠し持つことで、ここにもいくつか見られた。
 マーケットの人ごみに埋もれたティムが見たものは、暗い森の光景。見知らぬ地に取り残され、はぐれてしまうのではないかという恐怖がティムを襲う。行き交う人々の喧騒は、小さな存在に見向きもしない無機質な大人の世界ということか。そこで見つけたすずめのヒナは、ティムを認め思いやるぬくもりの象徴となって彼を現実に連れ戻した。
 暗めのイラストは非常にシュール。シンボリズムが何を示すのか、それは息子にも刺激的だったようだ。最後に空にはばたくすずめを見て、「ねえ、このすずめのお話はないの?」とつぶやいた。この一言から「何かを感じてくれたんだ」と、ほっとする。わたしの一方的なリクエストで読んだ絵本だったかもしれないと思っていたから。
 邦訳は原書をそのまま意識したということで、表現や時制にひっかかり少し読みにくかった。この版の前の訳でいつか読んでみたい。(asukab)

手のなかのすずめ

手のなかのすずめ