Crossing Bok Chitto ボク・チットー川を越えて

 「ボク・チットーと呼ばれる、ミシシッピ州を横切る川があります。南北戦争よりも前、さらにはチェロキー族が故郷を追われた涙の旅路事件*1よりも前から、ボク・チットー川は二つの土地をへだてる境界線でした。川のこちら側は、北米先住民族の土地です。向こう側には、農園主と奴隷たちが住んでいました。奴隷はボク・チットー川を渡れば、自由になれました。主人は、追いかけることはできません。それが、法のきまりでした。」
 逃亡する黒人奴隷を助けた先住民族の話は、以前から耳にしていた。『Crossing Bok Chitto: A Choctaw Tale of Friendship & Freedom』を息子と読み、ずっと抱き続けていた米国史のイメージが鮮明になって目の前に現れた。
 絶対に渡ってはいけないと言われていたボク・チットー川。チョクトー族の少女マーサ・トムは、ブラック・ベリーの茂みを求めて川を渡る。泥でにごった川には、川面ぎりぎりのところを歩けるようにとチョクトー族がひそかに積み上げた、見えない石の道があった。川の向こうで見た奴隷たちの礼拝。そこで出会ったモー少年との友情。川を渡って得た体験は、彼女にとりどれも心を揺さぶられるものだったに違いない。モー少年の母親が売却されたと知った夜、母親と別れたくないと泣き出した少年一家は自由を求めて逃亡を試みる。農園主たちが見張る闇の中、彼らはボク・チットー川を目指した。
 米国南部チョクトー族に伝わるという友情物語は、どんなことが頻繁に起きていたのか、歴史背景を鮮やかに教えてくれた。これは、この国に住む限り必ず覚えていなければならない史実だろう。北米先住民と植民地、奴隷制度の過去を見わたすと、ヨーロッパ植民の犠牲となった人々の悲しい歌が聴こえてくるようだった。
 茶系、グレー系を基調にしたイラストが、北米先住民と奴隷たちの生きた日々を威厳とともに伝えている。(asukab)
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  • 巻末にチョクトー族の現在が記されている

Crossing Bok Chitto: A Choctaw Tale of Friendship & Freedom

Crossing Bok Chitto: A Choctaw Tale of Friendship & Freedom

*1:Trail of Tears:涙の旅路=政府の移動命令に抗しきれずチェロキー族北米先住民がノース・キャロライナ、ヴァージニア、ウェスト・バージニア、ケンタッキー、ジョージアの故郷からオクラホマに移動した苦難に満ちた旅。1838-39年。冬季だったため、途中約4分の1が命を落としたと言われる。