すずの兵隊さん

 アンデルセンのようによく知られたお話は、日本語で読むとじんと心に染みる。と言っても『すずの兵隊さん (児童図書館・絵本の部屋)』(原書『The Steadfast Tin Soldier』)は記憶がおぼろで、終幕のいきさつを忘れてしまっていた。母が好きでよく読んでもらっていたにもかかわらず、アンデルセンのお話はどれも切ない感傷に包まれ、子どものわたしには少し手の届かない世界だったのかもしれない。読後、うっとりと余韻に浸る母とは対照的に、わたしは悲しい気持ちに沈むことが多かった。
 片足で世に送られたすずの兵隊の運命を、今度はわたしが娘といっしょに追う。大人の視点からこのお話を味わうと、うっすらとブルーグレイがかった悲しさが、人を想う清らかな気持ちとして投影された。どんなときも恋したバレリーナの少女のことを忘れず、兵隊として凛と生きようとした姿が熱く、美しい。さまざまな価値観が縦横無尽に飛び交う世の中だからこそ、まっすぐな気持ちが痛くも感じられた。最後に残ったすずのかたまりとバレリーナの飾りを、娘はずっと覚えていてくれるかな。大人こそ読み、感じた気持ちをそっと心の片隅に残しておくべきお話だろう。(asukab)
amazon:Hans Christian Andersen
amazon:Tor Seidler
amazon:Fred Marcellino

  • 「おもちゃってどのお話でも夜になると踊ったり、遊んだりするんだね」(娘) 「いろいろな絵本版で読んでみたいな」(わたし)

すずの兵隊さん (児童図書館・絵本の部屋)

すずの兵隊さん (児童図書館・絵本の部屋)