Night Boat to Freedom 自由へのかけはし

 奴隷制度の州ケンタッキーから自由の州オハイオへ。――1930年代、連邦政府大恐慌で失職した執筆家たちに奴隷体験の聞き書きを作業を斡旋した。Slave Narrative Collection(奴隷伝承集)には、奴隷制度廃止に至る時代を幼少期として過ごした八十歳代から百歳を超える高齢者たちの体験談が収められる。歴史フィクション絵本『Night Boat to Freedom』の作者は、その伝承集から二人の人物にインスピレーションを受けた。一人はクリスマスの朝に生まれたという若い奴隷青年(絵本での名前は、クリスマス・ジョン)。四年間にわたり、夜間木舟をこぎ、対岸の州へ自由を求める人々を送り渡した。もう一人は美しい赤い布につられアフリカを後にし奴隷として米国に連れてこられた女性(同グラニー・ジュディス)。故郷の村でしていたのと同じように植物から糸を染め布を織り、自由を願いながらキルトを縫い続けた。
 作品は、十二歳のクリスマス・ジョンがおばあちゃんのグラニー・ジュディスから命を受け、危険な仕事を引き受ける場面から始まる。闇の中、命がけの働きを遂行するジョンの姿に息を呑まずにはいられない。番犬を惑わすため、にんにく袋を足首に縛りつけ移動するところなど、闇、静けさ、犬の息、匂いが伝わり、手に汗を握った。おばあちゃんが縫い上げる色とりどりのキルトが自由へのシンボルとなり、闇と対照的に映る。
 水彩がとにかく美しい。画家は闇の描写が難しかったと語っているが、染色の鮮やかさと漆黒の闇のイメージが、当時の時代性をも反映するたくみな象徴として表現されていたと思う。(asukab)
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  • この伝承集からはこれからもたくさんのストーリーが掘り起こされるだろう

Night Boat to Freedom

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