運命の出会い

 米国に来てよかったと思えた人が一人いる。息子のバイオリンの先生である。旧ソ連クロアチア共和国)出身の彼女は、モスクワ音楽院卒業後渡米し、夫の出身地である当地に定住した。
 とにかく音楽に対する熱意、パッションが違う。性格がどうのとか個性がどうのとかいう前に存在する、音楽への情熱レベルが確実に違うのだ。灼熱の火で人をひきつける魅力を持ち合わせている。
 先日のモスクワ・ソリスト*1公演のことを話すと、わたしの友だちよ、との応え。ロシアの伝統を技と芸術表現で伝承する師匠のもとに弟子入りできた息子の、なんとしあわせなことか。ぜんぜん練習しない彼を見ていると、豚に真珠のレッスンなのかもしれないと落胆してしまうが、わたしが彼女の熱を伝授させてもらっているだけでもいい。毎週土曜日、これが芸術の深さなんだといつも感嘆させられる。家から車で五分のところでモスクワのレッスンが受けられるなんて、息子よ、早く目覚めてほしい。