かたつむりハウス

 摘みたて苺をほおばる息子と『かたつむりハウス (児童図書館・絵本の部屋)』(原書『The Snail House』)を読みました。冒頭がちょうど、苺摘みから戻る場面なので、これはぴったりです。娘も誘いましたが、「この絵本、日本で読んだ」とのこと――そういえば去年の今頃、彼女は日本でぴかぴかの一年生を体験したのでしたっけ――。よって、もっぱらイースターエッグ準備に興味が移ってしまい、読者は二人ということになりました。
 でも、この絵本、直前までコミック――『Garfield Fat Cat Three Pack Volume IV』――を読んでいた13歳をも引き付けるほど、とってもすてきな絵本なのです。おばあちゃんが子どもたちに語るお話が身近でかつ想像力を掻き立ててくれ、つい夢中になってしまいます。夏のお庭に足を踏み出したら、誰もがきっと「かたつむりハウス」を頭に思い浮かべてしまうのではないかしら。芳しい草の香りが渡る丁寧なイラストと、現実とファンタジーを行き来する詩的な語りが、極上の空想物語に誘ってくれます。
 自然界に暮らす小さな妖精たちの姿は絵本でよく目にしますが、この絵本が特別な点は、まずお話の聞き手である子どもたちが、かたつむりハウスに住むぐらいのサイズに小さくなることにあります。お花やどんぐりが帽子になるほどの小ささではなく、もっともっと小さくなるので、冒険の視点がぐーんと変わり、他にはない魅力を生み出しているのでした。たとえば赤ちゃんの弟がたんぽぽの綿毛に飛ばされてしまう場面は、たんぽぽの種ひとつぶの綿毛につかまって飛ばされていくので、読者はさらに小さな世界を想像し、思いを巡らせることになります。 
 表現もすてきです。おばちゃんはかたつむりハウスに関する3つのお話をしてくれるのですが、その語りぶりが生き生きしていて、目を輝かせて読んでいる自分が想像できたほどでした。たとえば、「ぐらぐら大じけん」では……

 「さいしょのじけんは、『ぐらぐら大じけん』。
 ある日、三人が、あさごはんを、たべているときのことさ。よく晴れた朝でね。空には、おひさまが、きらきら。くさむらでは、きりぎりすが、ちょんぎーす! ラジオは、ニュースをしゃべりだした。と、そのとき。『かたつむりハウス』が、きゅうに、ぐらぐら、ゆれだしたんだ。おさらは、われる。いすは、ひっくりかえる。かたつむりさんまで、ゼリーみたいに、ぷるぷる、ゆれて、とまらない」
 「にんげんだよ! だれかが、そのへんを、あるきまわったんだよね」
 「ちがうよ! ねこよ。ね、おばあちゃん?」

 こんな風に話者であるおばあちゃんと彼女の語りに耳を傾ける子どもたちの姿を追いながら、読者は現実とファンタジーの存在を知らないうちに意識させされ、わくわく臨場感も味わえるのでした。
 英国ファンタジー絵本の真髄がここにあると思わずにはいられません。苺の季節になったら必ず読みたい一冊です。(asukab)
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  • 横に細長い装丁の形が、かたつむりの歩む世界を象徴しているのかな

かたつむりハウス (児童図書館・絵本の部屋)

かたつむりハウス (児童図書館・絵本の部屋)