"Dogger" 英国で子どもたちにもっとも愛読されているという絵本を読みました

 その名も『Dogger』。長年にわたり子どもたちの心をつかみ、魅了し続けている理由が知りたくて、娘といっしょにページを開きました。
 「ドガー」とは、日本語でなら「わんちゃん」「わんくん」「わんわん」などと言い換えられるでしょうか。わんちゃんは、年頃3〜4歳の男の子デイブのぬいぐるみ。ぼろぼろになるほど寝食をともにしている、テイブにとってなくてはならない大切な存在でした。ところがある日、ひょんなことからデイブはわんちゃんをなくしてしまいます。お姉ちゃんのベラを始め家族みんなが探してくれたけれど、結局、わんちゃんはどこにも見つかりませんでした。
 なるほど……。英国の人気絵本を読み進めながら、魅力的な絵本だけが持ち得るたくさんの要素を確かめました。まず、お姉ちゃん、赤ちゃんの弟に囲まれたデイブの日常から、小さな子どもたちの共感がたちまちあふれ出てきます。子どもたちの成長を暖かく見守る母親のまなざし、懐中電灯で庭の茂みの中までわんちゃんを探してくれた父親の姿、お姉ちゃんの学校で開かれたサマー・フェアの様子、おもちゃがいっぱいのベッドルーム……。どの場面も何気ない自分の日常がそのまま絵本に移行されただけで、子どもは親近感を持ってその中に入り込むだけの身軽さに包まれるのです。家族の愛情が、たっぷりと根底に横たわっていることは言うまでもありません。
 背景だけではありません。わんちゃんが行方不明になった理由は、実際にありがちなこと。そして、そのわんちゃんを探し出す過程もお話の起伏を生み出し、ぐぐっと心の入り込む事件に向けて盛り上がっていくのでした。ここはお話のパワーを再確認させられた箇所です。巧みな構成に、うならずにはいられませんでした。
 ヒューズの描くイラストはちょっと日に焼けて、ビートルズ時代を想起させるかのような懐かしさをかもしています。そんな時間の差異を吹き飛ばしているのは、やはり幼児の生活をさりげなく描写した物語の力でしょう。会話表現がすばらしく、子どもの生活を知り尽くした人ならではの文章力です。
 米国版の初版は1977年で、タイトルは「David and Dog」。1988年に本国英国と同じタイトルに変えたようです。(asukab)
amazon:Shirley Hughes

  • 米国版は屋台での値札の貨幣単位がセント/ドルに書き直されていました。変えなくてもいいと思うんだけど……

Dogger

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