ねずみにとどいたクリスマス

 「おうさまが うまれたのよ」――。天使たちから聞いた王さま誕生の良い知らせを伝えようと、小さなネズミは森の動物たちに声をかけた。「いっしょに きて! たずねて いかなくちゃ」。天敵のネコ、おすましのイヌ、本能丸出しのキツネ、弱肉強食の森で有頂天になるクマ……いつもは一癖ある動物たちも、今宵ばかりは星の力につき動かされる。眩い星に導かれ雪の原野を旅すれば、あちらこちらから人々も動物も同じように、嬉しい知らせの馬小屋に向っていた。
 クリスマスを伝える絵本『ねずみにとどいたクリスマス (Forest books)』は、降臨の意味を考えるアドベントに相応しい一冊だ。揺るぎないネズミの気持ちと強い光を放つ星のおかげで、いつもはわがままな動物たちが心を一つに馬小屋を目指す。この道中が、決定的にすてきだった。ヴィルコンの素朴なパステル画が個性豊かな会話に味わいを添え、人間味(というか動物味)あふれる場面を繰り出している。威厳に見舞われたクリスマスの場面も美しい。
 でも、最後にひとつ欲を言えば、終章でネズミの一言の後に、たとえば「おうさまは やさしく ほほえんでいた」とか、何かクリスマスの余韻を残す一文が聞きたかったなと振り返る。(asukab)
amazon:Rudolf Otto Wiemer
amazon:Jozef Wilkon

  • 会話とイラストが秀逸。訳が上手なのですね。初版は1985年、ドイツの絵本

ねずみにとどいたクリスマス (Forest books)

ねずみにとどいたクリスマス (Forest books)