Way Up and Over Everything 黒人が空を飛んだお話

 黒人奴隷たちが空を飛ぶ伝説は、いたるところで耳にした。アフリカ大陸でヨーロッパ人に買われ――売ったのは部族の王たちだったという――新大陸で過酷な労働を強いられた彼ら。人間の尊厳を失った中で夢見たもの、それが空を飛ぶことだった。宙に浮き、主人の手から逃れた瞬間、極限状態から解放され、どんなに気持ちがよかったことだろう。
 絵本『Way Up and Over Everything』にも、そんなアフリカ人たちが描かれている。かなり重い歴史のはずなのだが、絵本はどこかしらおとぎ話のような甘さに包まれていてやさしい。主張しない、くすんだ水彩の色がそうさせるのか。読後も痛さが残らず、人買いの後ろ姿がこっけいに見えた。
 「これ、本当のお話?」と娘。今は本当のお話ではないかもしれないけれど、将来きっと本当のお話になるお話。その痛みがわかって初めてノンフィクションになるお話だ。本当になるか、ならないかは、彼女の生き方にかかっている。(asukab)
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