Abe's Honest Words: The Life of Abraham Lincoln リンカーン大統領のまっすぐなことば

 リンカーン大統領生誕200年を前に昨年、多くの関連絵本が刊行された。『Abe's Honest Words (Big Words)』は中でも特出していた印象が残る。伝記名言シリーズ『Martin's Big Words』(邦訳『キング牧師の力づよいことば―マーティン・ルーサー・キングの生涯』)*1、『John's Secret Dreams: The Life Of John Lennon』に続く3冊目ということで、引用される言葉が前作と同様、心に響くのだ。
 「人民の、人民による、人民のための政治」のゲティスバーグ演説奴隷解放の父――。自分自身、そのような表層的な受験用語だけで、リンカーン大統領の生い立ち、家族のことなどまるで知らなかった。長男を除く3人の息子たちとは、幼少、青少年期(次男エドワード3歳、三男ウィリアム11歳、暗殺後になるが四男トーマス18歳)に死別という悲劇。言葉で人の気持ちを勝ち得てきた人物の影には同時に、悲しみが渦巻いていたのか。
 貧しい農家に生まれたリンカーンは郵便業、運送業など職を転々とした後、独学で法律を学び、法曹界入りする。弁護士から政治家に当選した後、「平等」を謳う独立宣言が「黒人以外」と条件付きになる不平等を訴え、奴隷制度反対を強く推進した。ミシシッピ川で運輸に携わっていた頃、ニューオリンズで見かけた奴隷たちの光景が忘れられなかったこともあるだろう。「誠実なエイブ」の愛称で親しまれてきたリンカーンには、不誠実なダブル・スタンダードのまかり通る社会が許せなかった。
 第16代大統領に就任すると、奴隷制度撤廃を掲げる理由から南部7州が合衆国から脱退。南北戦争の起因となる。北部でも彼の唱えた黒人従軍案に反対が巻き起こり、軍指揮官として頼れるのか関係者の多くが疑問視した。四面楚歌である。
 この状態で人々の気持ちを動かしたのは、彼の魂のこもった言葉だった。「人=言葉」――演説で人民の心をつかみイリノイ州で活躍したことから、200年後に同じ土地でオバマ大統領が誕生する事実に何か運命めいたものさえ感じた。
 ネルソンのイラストが、これまた力強くて美しい。やはり入魂の一言に尽きる。歴代で最も長身193センチの容姿が、品格と威厳をもって描かれている。
 読了した娘が、「どうして偉大な人はみんな暗殺されるの? キング牧師もそうだった」とつぶやいた。主人曰く「変化を恐れる人がいるから。偉大な人々はみんな変革者だからね」。たとえ志半ばでも、彼らの言葉は深く人々の心に刻まれ、歴史にも風化されず残されていく。
 キング牧師記念日の翌日、20日にはオバマ新大統領就任式典が開かれる。娘の学校ではみんなが赤、青、白を象徴した服を着ていくのだそうだ。主人の学校では東海岸の就任式を録画し、後ほど全校で観賞する予定。
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Abe's Honest Words (Big Words)

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