my people モノクロ写真の美しさ

 たった33の言葉を、どのように写真として表現するか。表題中の「ピープル」はいったい誰なのか――年寄り、若者、黒人、白人、それとも人々すべて? そして、その表情は、真剣なのか、陽気なのか、顔だけ、体全体?――。写真家である作者がまっさらな気持ちで詩と対峙した末、無から見えてきたイメージは、やはり、詩人ラングストン・ヒューズ自身がもっとも愛した人々の投影だった。写真と詩の絵本『My People (Coretta Scott King Award - Illustrator Winner Title(s))』の美しさは、被写体となった人々の笑顔と陰影から浮かび上がる生への活力である。
 ラングストン・ヒューズ(1902-1967)のことは、娘が幼稚園のときに知った。学校で詩の暗唱発表会があり、そのときの詩が彼の一編だったのだ。その後、彼が黒人詩人であることを知る。正しくはアフリカ系、ヨーロッパ系、ネイティブ・アメリカン系の血を引くのだけれど。幼少期の生活環境は激変の連続で、両親の離婚後、人種差別の根深い米国を嫌った父とともに南米で暮らしたこと、その後、口承の伝統を愛する祖母に育てられたことなどが作詩に大きな影響を及ぼした。人種偏見の理由からコロンビア大学を去り、後にリンカーン大学を卒業。この間も、船員などさまざまな職を経験するが、心のよりどころは常にニューヨーク市ハーレム地区にあり、1920年代から30年代にかけて花開いた、芸術、文学、音楽を通して米国アフリカ系文化を謳歌する「ハーレム・ルネサンス」の中心的存在として国内外に知られていくようになる。
 33の言葉からなる詩。詩だけを耳にすれば、「ピープル」は世界中の人々ではないか。最初はそんな印象を抱いたのだが、しかし、詩人の想いをひも解けば、それはやはりハーレム讃歌だったのだと思い知らされる。両親や祖父母は、教養や学問の修得も許されなかった世代。ゆえに新しい時代の幕開けを祝福した一編は、確かに自らの存在を称える歓喜に満ちている。けれども同時にまた、時代を越えて、全世界へ普遍のメッセージとして広がる強さをも湛えている。
 モノクロの美しさの中に、人間の生が大きく明るく佇む写真絵本である。今さらながら、光と影、白と黒のシンプルであるがゆえの強さを確認させられた。ほんの少し飴色がかった光沢も、時代性という懐かしさを喚起させるのだろう。人々の温もりを、やわらかく伝えている。
amazon:Charles R. Smith Jr.

My People (Coretta Scott King Award - Illustrator Winner Title(s))

My People (Coretta Scott King Award - Illustrator Winner Title(s))