もしゃもしゃあたまのおんなのこ

 この夏の思い出は、秘密の花園で草むしりの手伝いをしたことである。
 近所に住むベルギー人のおじいさんは、小川の流れる敷地に住んでいる。並んだ二軒の豪勢な邸宅で、美しいビーグル犬と太っちょとおちびの猫二匹と日々を共にし、まるで洋画の中に居を構えるかのような暮らしぶりなのだった。自然を愛し、自然をモチーフにしたアート制作に取り組む芸術家でもあるので、洒落たヨーロピアンな「気」は当然、彼の過ごす時間が生み出している。
 わたしは彼の愛して止まない緑の王国で、秘密の花園体験をした。鮭が泳ぎ上り、ときどきラッコが遊びにくるという清流のせせらぎが、どれほど人の癒しになることか。ここには竹林があり、竹風の香りがほどよく体にしみこんでくる。敷地の西側は木立の茂る丘で、この蔭に包まれるときは、ひんやりとした草木の生命力に感嘆し、芝生の上で黄色い太陽に照らし出されるときは、短い夏への思慕に浸り続けるしかない。小動物や鳥たちに囲まれて、メアリーやマスター・コリンが心を開いていった過程が、手に取るように実感できた。
 『もしゃもしゃあたまのおんなのこ』(原書"The Girl with the Bird's-nest Hair")がいいなと思った理由は、そんな自然に囲まれた暮らしがこの絵本にも描かれていると感じたから。と言っても、絵本の描写は自然が対象ではなく、もしゃもしゃの髪の毛をした女の子の頭に、たくさんの鳥たちが住み着いてしまうという非常にシュールな光景だ。でも、鳥や小動物に囲まれた生活は、人の心が一番求めている原点ではないか、と思えて。
 秘密の花園体験は、たまたま息子が約束した仕事をわたしが手伝ったことから始まった。毎日、スコップを手に土に触れていたら、幸せな夏はコマドリが導いてくれた時間だったのだと、気持ちは知らないうちに生き物と草木の佇まいに向いていた。
 今日も庭にいたのだけれど、もう砂糖カエデの甘い香りが漂っていた。秋のはじまり。
5ひきの小オニがきめたこと - 絵本手帖
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もしゃもしゃあたまのおんなのこ

もしゃもしゃあたまのおんなのこ

  • 作品背景を語るサラ・ダイヤー