女の子の成長物語

 娘はよほどロビンが好きなのだろう。この鳥を庭で見かけるたび、報告しに来てくれる。赤いおなかが、お気に入りの原因らしい。木々に囲まれ暮らしていると、こうやっていろいろな鳥の存在に気付くことができて、わたしですらいつの間にか小鳥たちの声に耳を澄ませている。
 鳥の出てくるお話といえば、『ジェインのもうふ―アメリカのどうわ』。息子と娘に囲まれて読む絵本(幼年童話)の一冊だ。年の差のある2人を同時に引き付ける本って、これはなかなかすごい。ページを開くと2人とも、し〜んと静かになり、ジェインの様子に魅了され始める。ストーリーは、愛着のある毛布への思いを通して、女の子の心の成長を繊細に描く。 
 ジェインの毛布はピンク色、ふんわりしていてあたたかい赤ちゃん用の小さな毛布。ミルクを飲むときも、お昼寝するときも、遊ぶときも、ジェインはいつも毛布といっしょ、大きなベッドで寝るようになっても、「あたしの もーもは どこ?」と、毛布が離せなかった。一センチ、一センチ背が伸びて、ジェインが成長していく姿とは対照的に、ピンクの毛布は擦り切れ、どんどん小さくなっていく。この経過は子どもにとり、この上ない興味の対象なのだろう。赤ちゃん時代のぬくもりを呼び起こしながら、ついこの前まで幼い存在だった自分を投影させているのか、大きくなったジェインを見つめる彼らの目には懐かしさが灯る。ジェインはときどき「もーも」を求め小さな子どものように振る舞ってしまうけれど、子どもはそんな彼女の幼さにも親しみを感じるようだ。
 ジェインの成長をあたたかく支える両親の姿は、子どもにもたっぷりと安堵感を与えている。お手拭きタオルくらいの小さな切れ端になった毛布の行き先を家族三人息を潜めながら見守る時間は、充実と安らぎの中でゆっくりと流れていく。イラストの彩色は、毛布のピンク色のみ。柔らかいピンク色はジェインの愛らしさとも重なり、読後のぬくもりをさらに深く記憶に留めてくれる。(asukab)

ジェインのもうふ―アメリカのどうわ

ジェインのもうふ―アメリカのどうわ

四季の絵本手帖〜春の風にさそわれて〜

 モノトーンの描いた冬の風景に替わり、黄色や桃色、すみれ色、若草色が控えめに顔をのぞかせ、にわかにおしゃべりを始める春――。柔らかな日ざしと風の温度は、誰の心をも戸外に誘います。一年中外遊びの好きな子どもたちにしてみても、この季節の明るさや空気のにおいは、空に向かって飛び出したくなる特別なエネルギーを与えてくれるのでしょう。草の芽も花も、鳥も動物も、感じていることはきっと同じです。新しい出会いが待つ春は、生命を吹き返した色とりどりの自然の中で、子どもや動物たちを祝福し始めます。
 春の野草の中でも「たんぽぽ」はうれしい春の象徴となり、にぎやかに草地を彩ります。花輪を作り、たんぽぽの玉子焼きでままごと遊びをし、種を風に飛ばし……、この黄色の放つ明るさは、まるで春の水玉模様となって子どもの心で弾けているかのようです。見かけたら、いっしょに遊ばずにはいられない友だちのような親しみを投げかけながら。
 子どもとお散歩に出かけ、これから始まる緑の季節にあいさつを交わしましょう。香る草花、動き始めた虫たち、さえずる小鳥たち――自然の中に生きる仲間たち――との出会いは、子どもの一日ばかりでなく、野原、道ばた、街角すべてを淡く柔らかい春の息吹で包み込んでいます。(asukab)

四季の絵本手帖『はらぺこあおむし』

はらぺこあおむし エリック=カール作

はらぺこあおむし エリック=カール作

 鮮やかなコラージュが一週間食べ続けるあおむしの姿を描く、楽しい仕掛け絵本です。空腹という共感せずにはいられない状態のあおむしを追いながら、子どもは色彩豊かな食べ物の世界に入り込みます。笑顔の太陽の下、生まれたばかりのあおむしが食べた物は、月曜日にりんごを一つ、火曜日になしを二つ、水曜日にすももを三つ、木曜日にいちごを四つ、金曜日にオレンジを五つ……食べた形跡を穴に残す仕掛けは臨場感たっぷりで、小さな穴の存在は、それだけでも十分に子ども心をくすぐります。土曜日の見開きにはチョコレートケーキやペロペロキャンディーなど子どもの好きな物ばかりが並ぶので、一目でお気に入りになるかもしれません。小さな生き物が自分と同じようにおなかをすかせて食べる姿は、親近感となって子どもの心に迫ります。
 宝物がちりばめられたように興味の対象がつまった絵本は、さまざまな楽しみ方を提供します。色、数、曜日、あおむしの成長など、多色使いの美しいイラストを通して紹介される生活概念や自然科学は子どもの好奇心を大きく揺さぶることでしょう。食事の話をしたり、カレンダーを眺めたり、数をいっしょに数えたり、絵本をきっかけに始まる会話からは次々と遊びが生まれます。フェルトであおむしの指人形を作り、一週間を再現してみるのも楽しいでしょう。そのまま戸外に出て、春の自然に親しむことも忘れたくありません。(asukab)