芽が出たよ

 くまさんシリーズは、ぬいぐるみのくまさんがさまざまな職業を通して淡々と日々の生活を紹介するシリーズ。この「淡々」の中には幼児の心に響くものがたくさん織り込まれていて、何気ない日常の愛おしさがじんわり心に染み入ってくる。くまのぬいぐるみ(テディベア)の存在、まわりのあたたかい人々、擬音語の繰り返し、身近な題材――どれも、このシリーズの魅力を語る大切な要素となり、子どもには(わたしにも)たまらない。娘はいつもこのシリーズに魅せられるけれど、『うえきやのくまさん (世界傑作絵本シリーズ―イギリスの絵本)』は想像以上の喜び方だった。
 まず自分の生活の中で、父親が毎日芝刈りをしていたこと、ひまわりの種が芽を出したこと、お店屋さんごっこに夢中になりお金の存在に興味を持ち始めたこと、すべてが重なり合ったことがよかった。庭の道具(特に、うちにもある手押し車や古い型の芝刈り機)も魅力的な様子だけれど、何と言っても一番のお気に入りはくまさんが畑の収穫物を屋台で売る場面で、今年の夏はくまさんと同じように収穫物を売りたいと言い出していた。
 「ママ、おいで〜!」娘の声に誘われ庭に出ると、いくつもの植木鉢の前で大きなスマイルが待っていた。「ほら、出てきたよ。見て!」と嬉しそうに指をさす先には、母の日にまいたブッシュ・ピーの芽の数々。「これが一番大きくて、次がこれ……」と、得意そうに説明は続き、彼女の声をわたしといっしょに聞いているたくさんの小さな芽まで心地良さそうに見える。よかったね、ママはそのスマイルを見ているだけで幸せよ。ドイツ語の「kindergarten」とはよくいったものだと感心した。「children's garden」って、本当にそのものじゃないか。子どもはこうやって植物を育てながらいろいろなことを学んでいくのだ、喜びと共に。あの日にまいた種は、すくすくと育つ。 
 収穫した後、絵本でくまさんがしたような屋台を出して収穫物を売る計画は、娘の中で着々と進んでいるらしい。同じ日に描いた菜園の絵――トマト、とうがらし、ブッシュ・ピー、マリーゴールド――は今でも大切に持ち歩いていて、ときおり思い出したかのように取り出し、作物の種類を確かめている。(おかしいのは、ブッシュ・ピーの種をばらばらまいている光景。)「くまさんは、何でも自分でするんだよ」と彼女が言うように、シリーズ中のくまさんは毎日の生活を大切に、誇りを持って送っている。生きるってそういうことなんだとわたしが知ることができたのは、家族・子どもたちのおかげ。畑や庭にいると、その気持ちがとても強く感じられる。(asukab)

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