ジャズ・バンドの思い出

 『ベンのトランペット (あかねせかいの本 7)』は、ジャズ音楽の魅力を少年の心を通して伝える美しい絵本。トランペッターに憧れるベンの健気さが白と黒を巧みに操るモノクロの画面から痛いほど伝わる、喜びと悲しさが描かれた作品だ。貧しい街角の匂い、ジャズクラブの薄灯り、時代は30年代から50年代ぐらいだろうか……、ジャズのリズムに乗って少し哀愁をおびたトランペットの調べが流れ出てきそうなイラストが、いかしている。
 金曜日に小学校のオーケストラ、ジャズ・バンドの学年末コンサートがあった。昼の部に出かけ、生徒たちが真剣に演奏する姿を目の当たりにして胸が熱くなる。全校200名たらずの小さな学校だけど、そのうち4年生から6年生までの60名がバイオリンやブラス楽器を抱え演奏する光景は壮観だった。息子はサクソフォンを演奏。トランペットを吹く親友といっしょに、デュエットもした。音楽担当の教師は3人。学校区では小学校常駐の音楽教師は配属せず、彼らは日替わりで何校かを巡って教えている。
 息子と娘の通うこの小学校は、フリー・ランチのクーポンを受け取る生徒が半分以上の小学校――つまり、移民や生活保護を受けている家庭の子どもが多い学校だ。州統一テスト学校平均点は言語の壁が影響して学区内でも低く、教育熱心な親たちからは避けられている学校でもある。そういう親たちはみな、英才教育プログラムなど少数精鋭プログラムのある学校を選びたがる。
 この学区自体、生徒の家庭での言語環境が多様化していて、話されている母国語は90種類にも上るそうだ。米国都市部における教育背景を象徴する数字だろう。でも、小さな頃の体験として大切なことは何か? 心の成長の本質を見つめれば、それは人との出会いになる。多様性はこの地域ならではの利点だし、息子や娘にしてみれば異文化間コミュニケーションを知る貴重な機会と場を与えられていると言える。
 多様な家庭環境は英語使用の教育には不利だけれど、だからこそ、うちの学校の先生たちはとても意欲的。みなバイリンガルで、特にスペイン語を話す生徒が多いことから、多くの教師がスペイン語を話す。主人はこの小学校で2・3年生のクラスを教えているが、彼や同僚の教師たちの献身的な姿勢には、いつも学ぶことが多い。
 その小学校で、これほどの音楽プログラムが持てたことに心から拍手を送りたい。楽器を学ぶ生徒の割合は、学区内では一番高いそうだ。子どもたちが誇りを持って演奏している姿は、音楽の力、子どもの力、学校の力……、いろんな可能性を示してくれた。夜の部では、みな正装をして、さらに感動がいっぱいのコンサートだったらしい。先生たちには、感謝の気持ちでいっぱい。来週が最後の音楽の授業日とのこと、ショートブレッドを焼いていこう。
 このジャズの絵本は息子のために買い求めた。小学校を卒業する彼に、こんな豊かな学校でのジャズ・バンド経験をいい思い出にして欲しいと思って。(asukab)
http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0688801943/qid=1116720397/sr=2-1/ref=pd_bbs_b_2_1/104-8076368-8185514