四季の絵本手帖『まりーちゃんとひつじ』

まりーちゃんとひつじ (岩波の子どもの本 (14))

まりーちゃんとひつじ (岩波の子どもの本 (14))

 分かりやすい表現で静かに子どもの心をつかむお話が二編収録された絵本です。『まりーちゃんとはる』では、のどかな田園を背景に、まりーちゃんとひつじのぱたぽんの会話を通してお話が進みます。「ぱたぽんが子どもを生んだら、どうしましょう」――この問いかけをめぐり、主人公の二人はそれぞれ自分たちの夢を描きながら答えを披露しあいます。その毛を売って新しいくつ、赤いぼうしを買ったり、メリーゴーラウンドに乗りたい、とまりーちゃんの答えは即物的です。家の人たちが羊の毛を売り生活の糧にすることを目にしているまりーちゃんは、農村の生き方を無垢なつぶやきに表出したのでしょう。一方、ぱたぽんは子ひつじたちといっしょに原っぱに住みたいと幸せの本質を示しました。人間と動物、立場の違う二人の夢は対照的ですが、どちらも純粋な気持ちから生まれたものに違いはありません。
 誰かと夢を共有することは、子どもにしてみても心休まる楽しみです。ささやかな会話に耳を傾け、素朴な色合いのイラストを目にすれば、絵本の中には幸福な時間が流れるばかりです。主人公たちの田園での生活ぶりは、心地よさという一言で表せます。
 丁寧でやわらかい言葉づかいの会話と語りは、人間として大切にしていたい気持ちのあり方を示しているかのようです。小さな子どもを見守る作者のあたたかなまなざしが、十分に伝わってきます。(asukab)