まじめな、米国版ほら吹き話

 月曜日から息子のサッカーキャンプが始まった。コーチする面々は、何と!昨年度の全米大学サッカー選手権で優勝したという地元S大学サッカー部員たち。このチーム、そんなに強かったんだ。しかも息子のグループを指導するのは同選手権MVPに輝いたスター選手だそうで、主人が「野球じゃなくてサッカーにしてよかった〜」と喜んでいた。米国ではよく(公立、私立関係なく)大学や高校の運動部がクラブ運営費用調達のために、部員指導のキャンプやワークショップを開いている。それも、今年は優勝チーム。全米チャンピョンから教えてもらえるなんて、これは特別な経験になりそうだ。
 こうして始まった彼の夏休み。キャンプから帰ってくると、近所の子どもたちと暗くなるまで遊んでいて、家に戻ると食事を取って就寝。なかなか本を読むチャンスがない。でも、娘が銀色のサッカーボール(鏡のようにピッカピカ)に夢中になっている間、久々に息子と絵本の時間が持てた。
 『くもりときどきミートボール (ほるぷ海外秀作絵本)』を取り出すと、「ああ〜、これ食べたくなっちゃうんだよ〜」と喜ぶ。懐かしいよね。米国では人気絵本の一冊である。この表紙はどこでもよく見かけるもの。でも、これは日本語だよ。最近邦訳が出て感動して買い求めた一冊なのだ。原書タイトル『Cloudy with a chance of meatballs』はこちらの天気予報の表現をもじったもので、それを受けた邦訳タイトルにわたしは感心。加えて、絵本に出てくる「the town of Chewandswallow」は「カミカミゴックンの町」。題名と町の名前だけで、もう楽しい〜。
 パンケーキを食べた日の夜、おじいちゃんの話してくれた奇想天外なお話は、読者であるわたしたちをもカミカミゴックンの町に誘ってしまう。この町の人々は食事の準備をしたことがない。なぜかといえば、食べ物は朝、昼、晩、すべて空から降ってくるものだから。メニューはいろいろで、スープやジュースの雨だったり、雪かと思ったらグリーンピースやマッシュ・ポテト、ときにはハンバーガーの嵐もあった。「ラルフの屋根のないレストラン」から分かるように、レストランには屋根がない。野球場には「パイのため試合は中止」なんて掲示されていたり、絵を見るのが楽しい絵本なのだ。もちろん、町の衛生局は大忙し。町をきれいに保つため、3度の食事の後は、清掃車を出動させて残り物を犬や猫に与えていた。しかし、そんなカミカミゴックンの町に異変が起こる。異常気象のため大量の食料が降ってきて、町が機能しなくなってしまったのだ。町民が他の地に移住を決意するところなど、まるで移民の歴史を見ている雰囲気。……こうなる間にも、パンケーキ、ドーナッツ、スパゲティ、ピザ、マカロニ、アイスクリーム、チーズ……(非常に米国的なメニューだけど)が山ほど描かれれば、息子が「あ、これ食べたい」と合いの手を入れる気持ちもわかるというものだ。
 今頃邦訳出版されたことに、ちょっと驚く。イラストが、日本の志向に合わないと思われていたのかな。(ペン画に赤、黄主体の彩色。)でもまあそんなことより、発想は飛び切り愉快である。とにかくおいしくて、笑える絵本。日本語でも、カミカミゴックンの町がそのまま満喫できた。(asukab)

くもりときどきミートボール (ほるぷ海外秀作絵本)

くもりときどきミートボール (ほるぷ海外秀作絵本)