アートの世界#2

 『てん*1には続きがある。ということで、『Ish (Creatrilogy)』を読む。
 「続き」と明らかには謳っていないのだけど、これを読むと「あ、これはあの男の子……」と前作のイメージが浮かんでくる。最後にワシテから「サインして」と頼まれた男の子が、(たぶん)この作品の主人公。彼の名前はラモン。ラモンは絵を描くことが大好き。(これは、ワシテのおかげだね。)いつでも、どこでも、何でも描いた。でもある日、おにいちゃんのレオンから「何だ、これ?」と描いた絵を笑われて、それ以来、ラモンの絵に対する気持ちは変わってしまう。そんな彼に絵のすばらしさを再認識させてくれたのは、なんと小さな妹マリソルだった。彼女の部屋には、ラモンがくちゃくちゃにまるめて捨てた絵が壁一面に飾られていた。
 前作を俳句とすると、こちらは短歌という感じかな。主題は絵や教育だけに留まらず、人生の奥深さにまで及ぶ。最後の方は啓蒙絵本という感じさえする。2冊とも少々教訓的と指摘されているが、教訓から気づけることもあるだろうから、これはこれでいいのでは。軽やかなペンさばきが、「教え」の硬さを拭い去っている感じである。きっと日本では前作の方がが受けがいいだろう、とは個人的な感想。
 兄のレオンが笑った絵は花瓶の絵。「花瓶には見えない」と言われて、「花瓶にしなくちゃ」とあせるラモンの姿に哀しさが漂う。でも、妹マリソルからは「花瓶…らしく」でいいじゃないと言われて、すべてが「…らしく」なる。「ish」の訳が「らしさ」でいいかわからないけど、「らしさ」の発想はその後のラモンに大きな影響を与える。
 予想通り娘は「ish」ってなあに?と不思議がっていた。苦し紛れにボーイッシュ、ガーリッシュで説明。内容吟味のためには、小学生以上が対象の絵本と言えるだろう。息子はだまって静かに聞いていた。(感想を聞きたかったのに、友だちとゴルフに行ってしまった……。) わたしはこちらのほうが好き。こうやって生きたら、人生素敵だよと教えてくれるようで。「らしさ」の生き方はわたしも共感できる。谷川俊太郎さんがどんな訳をされるのか楽しみ。(asukab)

Ish (Creatrilogy)

Ish (Creatrilogy)