四季の絵本手帖『むぎばたけ』

 青々と茂る自然をたたえるお話は、芳しい夏の夕べ、月の光に照らされる原っぱを舞台に幕が落とされます。月夜の散歩に繰り出す主人公はハリネズミで、途中、ノウサギのジャックじいさん、カワネズミが加わり、いっしょに麦畑を目ざします。自作のはなうたを口ずさむハリネズミ、ステッキをつきながら歩調を合わせるジャックじいさん、小さなだんご鼻を突き出して進むカワネズミ――気の合う仲間同士の会話に耳を傾ける子どもはそれぞれの個性に魅せられ、ますます耳をそばだてます。
 「人間のすることって、わしにゃ、わけがわからん」「まったくだ」――。お月さんのランプ」というほっとする光が空にあるのに目にこたえる電気の灯りをつけっぱなしにしている人間がまったく理解できない、とジャックじいさんとハリネズミが共感しあっているのです。野生動物の身のまわりに変化を引き起こしている人間への批判は、子どもの心にも素直に響きます。
 麦畑で3匹が聞いた音は、まるで麦の海に渡るさざなみのささやきでした。風の匂い、音、温度、月の光、穂の波……一面すべてが絵本のこちら側でも体感できる時空は、ページを開いている限り永遠に続きます。自然とともに生きるすばらしさを伝える夏の夜のできごとは、時代を超えて語り継がれていくべき使命を担っているといえるでしょう。感受性豊かな時期に、この作品に出会えた子どもは幸せです。(asukab)