日本の田舎の清涼感

 シアトルの夏は短い。当地は、緯度でいえば北海道の北、樺太、サハリンあたり。例年、7月に1週間ぐらい夏らしい日が続くけれど8月に入れば風はもう秋。今年の夏は何だか涼しくて、このまま暑い夏は来ず秋になってしまうのではないかとふと寂しい気持ちになってきた。5月頃、85度F(30度C)ぐらいの異常気象が2日ぐらいあったけれど、あとは快晴でも風がひんやりしていて上着の必要な日が続く。確かにさわやかで過ごしやすいけれど。しかしながら、このまま終わらないで欲しい〜。
 『新装版 みずまき (講談社の創作絵本)』は息子が小さな頃、偶然求めた絵本。日本の田舎の夏が大胆な筆づかいの水彩で描かれる。涼しい夏を何年も体験していると、時に灼熱の太陽が無性に恋しくなる。猛暑の中で清涼を味わう異空間というか、感覚の差異がたまらない。田舎の真夏の午後には、そんなものがいたるところに隠れていた。
 山国で育ったので、まわりに畑があり、川が流れ、牛がいて犬や猫がいて……と描かれた風景の匂いは直感でわかる。「にわのみなさん あめだぞ あめだぞ」で始まる絵本の中の水まきは、植物だけでなく子どもにも夏の恵み。光っていて、冷たくて、手を伸ばしてもつかめない水と戯れるうれしい気持ちが、夏草の生い茂る庭に弾けている。
 右ページのクローズアップを次ページの全景で当てっこ遊びする趣向が楽しい。答えが非常に田舎的なので、正解は難しいかもしれないが。「たぴ たぴ たぴ たぴ」「きゅる きゅる きゅる きゅる」「しゃく しゃく しゃく しゃく」「こち こち こち こち」……なめくじ、ぼうふら、あおむし、むくどり、こがねむしなど、小さな生き物たちの出す不思議な音も、なぜかそれだけで清涼感を与えてくれる。
 それにしてもこの筆の勢いときたら、これだけでも田舎のおおらかさ、奔放さの証明のようなもの。そこに鮮やかで透き通った絵の具が加わるから、色の爆発でもある。木葉井さんはすでに他界されたと知ったが、もっともっとこの田舎の絵をシリーズで見てみたかった。(asukab)

新装版 みずまき (講談社の創作絵本)

新装版 みずまき (講談社の創作絵本)