夏のひそかな楽しみとなる絵本#2 いわしくんのスマイル

 夏の絵本を何冊か積み上げた。ほとんどが翻訳か原書絵本だけど、その中に日本の創作絵本が一冊。『いわしくん』は、息子も娘もわたしも大好きな作品である。直に吟味できない日本の絵本を注文するには結構勇気がいる。というか、わたしはほとんど注文しない。でも、この絵本は大当たりで、購入して大正解の絵本だった。息子が小さな頃に手に入れて、彼の友だちの間でも評判になったほどだった。
 ささやかな絵本なのだが、詰まっているもののパワーというか深さがこたえる。ものごとの基本や単純なメッセージをストレートに伝えること――これって絵本では大切な要素だけど(……絵本だけじゃないか)、はずしている作品は結構多い。
 お話は1匹のいわしの一生を追った人生劇場ともいえる展開で、いたってシンプルである。日本の海で生まれ、網にかかり、店頭に並び、買われて、焼かれて、食べられて……。いわしくんを取り巻くできごとが、見開きごと淡々と描かれるテンポが小気味いい。こういう切れのいい進み具合には、こってりとしたイラストよりもあっさり描く方がしみるんだろうなあ。最後に再び、気持ち良さそうに思い通りの生き方を実現するところなど、生き物の悲しみと喜びが伝わってきて思わずホロリ。いわしくんのうれしそうなスマイルが、生きる素晴らしさを代弁しているからかもしれない。半ページに顔をのぞかせる構成が生きている。
 作中に出てくるプールの場面は、去年4月から7月まで日本に体験入学した息子にとって懐かしい風景になる。日本の日常、家庭の匂い、プールの水しぶきもいっしょにやってくる、ちょっとホームシックに誘われる絵本でもあるなあ。
 いわしくんのくるんとした愛くるしい目が忘れられない。息子も娘も表紙のスマイルを見るだけで、「これ、大好き」とつぶやく。(asukab)