夏のひそかな楽しみとなる絵本#7 「真夏の夜の夢」の絵本版

 ある夏の夜、お誕生パーティへの招待状を受け取ったルーシーは、紙の帽子の魔法で小さくなり小鳥の運転するタクシーに乗ってパーティに出かけることに――。かえる、ねずみの夫婦、しゃくとり虫、夏の草花……、月明かりのもとで広げられる小さな世界のできごとは、子どもを瞬く間にファンタジーに誘う。
 甘くてきれいな水彩画を描くアイリーン・ハースの作品*1は、目にするだけでため息がもれる。初期の頃は挿絵ばかりだが、本領を発揮するのは自作絵本に取り組んでから。息子がプレスクールの頃、図書館で『A Summertime Song』を手にして、彼女のすべてが詰め込まれた集大成だと感じた。ロマンチックで、センチメンタルで、ノスタルジックで……、女の子の好きなものがいっぱい。(……といっても息子も好きなお話だったけれど……)これだけ豪華に大判で夏の夜の夢物語を表した絵本って、他にはないのでは。加えて作中に描かれた日本の絵画、人形、屏風には、アート通ハースの文化的な趣味がうかがえ日本人として何だかうれしくもなった。恋愛ものではないけれど、ここにはシェイクスピアの『真夏の夜の夢』を包む夏の香りが流れている。
 遅ればせながら昨年、邦訳『つきあかりのにわで サマータイムソング (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)』を手に入れて再び感動。月明かりを意識した(かのような)ひんやりほのかに光る紙を使用して、夏の夜のファンタジーをそのまま(というより、原書以上に美しく)再現している。大切に絵本作りに携わったというまごころが、米国サイドからも、日本サイドからも伝わる作品である。日本人形の行方、びっくりお誕生パーティ(+ろうそくの数)など娘を魅了するプロットがあちらこちらに登場するので、彼女はその箇所になると真剣になった。わたしも夏の幻想に思いを寄せて語りを楽しんだ。
 アマゾン・レビューで指摘の箇所は、助詞の使用を正すだけで解決するので、再版の際はそうされたらどうか。素人の考えで簡単には進まないのかもしれないけれど、ほんの1、2箇所のことでこの芳しい夢の世界が伝わらないとは、その方が残念だと感じる。(asukab)

つきあかりのにわで サマータイムソング (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

つきあかりのにわで サマータイムソング (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)