夏のひそかな楽しみとなる絵本#9 アイリーン・ハース夏絵本3部作

 勝手にハース夏絵本3部作なんてつけた理由は、この作品を手にしたとき「夏のさわやかさを描かせたらハースが1番なんじゃないか」と感じたことに起因する。表紙も中表紙もページのすべてが淡くところどころ深みのある草色でおおわれていて、夏草のひんやりしたくすぐったさが絵本を手にしただけで伝わってきた。この色合いにはもちろん夏の開放感が含まれるけれど、絵本にはどちらかというと緑の茂みに隠れるすてきな秘密が描かれている。草むらって、そういう発見の場所だし、秘密探しはわたし的には夏の風物詩。
 ボール遊びをしていた子どもたちが、誤ってボールをカーリーおばさんの庭に投げ入れてしまったところからお話は始まる。子どもたちはボールを返してもらおうと塀に囲まれた彼女の庭に恐る恐る足を踏み入れる……。
 子どもたちがカーリーおばさんを怖がりいろいろ想像するイメージは、透明お化けのように描かれ疑心暗鬼そのもの。この幽霊のようなイラストに娘は興味津々だった。知らない人間に抱く気持ちって、子どもに限らずこういうものかもしれない。
 10年くらい前、この絵本(邦訳)の大好きな女の子がいたなあ。いつもいつも読んでいると教えてくれたけど、その理由をわたしは今になって実感した。邦訳も原書も書影が無くて残念〜。(asukab)

 ハースの代表作*1。自分の船で生活するという子どもの夢をそのまま実現してしまう絵本。こんなことできたらいいな……という出来事が次から次へと描かれる。なので、見る間にマーガレットといっしょに夢の中に引き込まれてしまう。夢といっても、畑で収穫し台所で料理するといった生活に根ざした自立の姿が描かれるから現実感があり、そこがさらに魅力的である。初めて読んだときは終り方があまりにも唐突と感じたが、夢ってそういうものだし、これはこれでいいのかと後で思い直した。
 船、畑、魚釣り、赤ちゃん――こうして見てみると、対象は子どもの好きなものばかり。ちゃんと子ども心のわかっている人なんだ。
 米出版社にひとつ希望があるのだけれど……。白黒ページもカラーにした特別版を出版してもらえないかなあ。全ページカラーで登場したら、それこそ夢の中の夢のマギーBになる。(asukab)

わたしのおふねマギーB (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

わたしのおふねマギーB (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

 イラストの美しさが売りのハース。この作品*2では絵に加えストーリー展開にドラマが見られる。プロットとなるおばあちゃんの日本人形が年月の流れを感じさせ、基調のセピア色と美しく調和しているところはお見事としかいいようがない。人形がノスタルジーとなり、他作品には見られない深さが生まれていると思う。
 大人が見たら「ノスタルジックな幽玄美」、子どもにしたら主人公ルーシーが小動物たちと巻き起こす「小さな世界での冒険」となり、両者ともワクワクせずにはいられない設定である。夏の芳しさをこの色で表現するとは、いぶし銀のようなハースの渋さが表れた絵本といえる。個人的に日英両方で揃えたい作品。(asukab)

つきあかりのにわで サマータイムソング (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

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