キャデラックに乗って、おやすみなさい

 こちらの子ども部屋のぜいたくぶりといったらない。というか、生活に余裕があればの話だが、住環境に対する意識が違うとでもいうのかな。テーマで部屋を飾る趣向は子ども部屋にも適応され、たとえば女の子なら、花の妖精、お姫さま、人魚だったり、男の子ならジャングル、海洋、宇宙、船だったり。ランプやカーテン、マット、本だな、シーツやカバーに至るまで、まるでテーマパークに足を踏み入れたかのようなトータルな凝りようなのである。カタログを眺めれば、ただただ、ため息もの。実際にお店に足を運び小物やインテリアを目の前にすれば、「お金に余裕があったら楽しいことだろうなあ……」と別世界の話であることを認識する。初めて自動車の形をした子ども用ベッドを見たときは、その遊び心に驚嘆というか、わざわざここまでする親もいるのだと逆に感心した。というより、これが親の自己実現なのかも、とも。でも、楽しい。こんな自動車に乗りながら眠りにつけるなんて。
 そんな経験があったので、『Sleepy Cadillac』がニューヨーク・タイムス紙で取り上げられたときは、父親のノスタルジーと子ども(特に男の子)の乗り物好きを合わせた「夢」の絵本じゃないかと感じた。作者のサッチャー・ハードは、『おやすみなさいおつきさま (評論社の児童図書館・絵本の部屋)』の画家クレメント・ハードの息子に当たる。
 おやすみの時間になると、夜空から青いキャデラックがやってきた。パジャマのまま乗り込んで、フルムーンに見守られながらドライブ飛行が始まる。ハンドルが回り、エンジンがうなる。町のスタンドでガソリンを入れ、これで遠出も大丈夫。霧の中を抜け、林、家々、野を越え、海に出た。柔らかい月の光が、キャデラックをやさしく包み込む……。
 車に詳しい主人に言わせると、これは1959年型のキャデラック。米国経済黄金期の設計らしくウィングを突き出すなど、もっとも派手にデザインされた型だそうだ。今、息子がフェラーリポルシェなどヨーロッパ車に夢中になっていてサイトで見つめては「かっこいい〜」を連発させているのだが、男の子ってやっぱり車が好きなんだね。友人夫妻に男の子が生まれたとき、「バービー人形が好きなら、それはそれでいいよ」と、おもちゃに男女の性別は強制しないことを宣言していたが、何もせずともその子は自動車や機関車に興味を持ち、お人形には見向きもしなかったそうだ。動くものに魅せられるんだよね、きっと。
 車好きの父子にぴったりの絵本は、パステル画で描かれる。少々粗く仕上がっているけれど、夜のほの明かりがうまく出ている。最後のページ、壁に掛けられている絵がこの絵本の表紙だったらよかったのに……と余計なことを感じてしまったが、乗り物好きの子どもたちが満ちたりた気持ちで眠りにつける絵本であることは確かだろう。この時代の米国車って、ものすごく大きくて乗り心地がいいのだ。読むのは当然(って、決め付けちゃいけないが)父親になる。(asukab)

Sleepy Cadillac

Sleepy Cadillac