ミニ・グレイの絵本 アクション・フィギュアの大冒険!『Traction Man is here!』by Mini Grey

 『Biscuit Bear*1でミニ・グレイの作品に魅了され、他作品も手にせずにはいられない。書店で何冊も揃えられていたのが、『Traction Man Is Here! (Boston Globe-Horn Book Awards (Awards))』(仮題『トラクションマン、ただいま参上!』なんてどうだろう。)わっはっは、これはアクション・フィギュア好きな男の子とその家族にはたまらない作品だ。声優気分でアクション・ワールドを演じる自分に気付ける、貴重な絵本である。
 中表紙には、男の子の書いたサンタクロースへの手紙が1枚。1番欲しいものは新発売の最新「トラクションマン」で、古い型のトラクションマンは不運にもパラシュート事故に遭ったと書かれている。手紙の主の年齢は、6、7歳くらいだろうか。願いはさっそくかなえられ、クリスマスにはぴっかぴかのトラクションマンがやってきた!
 トラクションマンの日々は、愛と正義に満ちている。フィクション仕立ての日常の中で、時間足りずと大活躍。まずはジェット・パワーのスニーカーに乗り、フトン星に一直線。そこではおもちゃの農場の動物が、邪悪なマクラ星人たちに食べられようとしていた。けれども、トラクションマンは強いのだ。瞬く間に敵をやっつけ、次の指令地に向けてさっそうと飛び去った。トーストの見張りをした朝食の後は、食器洗いの使命が待っていた。濁った洗剤の泡が浮かぶ流しの中は、食べ残しや汚れた食器でごった返している。ざるの網についたかすを取り除こうとする間に、猛毒フキンダコがやってきてトラクションマンを窒息させようと試みた。トラクションマン、ピ〜ンチ! ……そこに登場するのが、愛らしい目をしたタワシ犬のブラシ。危機一髪のところでトラクションマンを救い出し、ブラシは即座にトラクションマンの愛犬となった。裏庭では悪徳シャベル教授に埋められたお人形3人娘を救出し、「このお礼、どうしたらいいのでしょう」と感謝されると、「お嬢さん方、気にしないでください。これが仕事ですから」とニヒルな笑みを浮かべてクールに去っていく。泥まみれの後は、お風呂に直行。浴槽の中でブラシを襲おうとした伝説の謎の怪物アシユビーを倒そうと、コチョコチョ作戦に出た。こうして愛と正義のためにパワーを全開させるトラクションマンだったが、クリスマス休暇で訪ねたおばあちゃんの家にはいまだかつて無い大冒険が待ち受けていた……、じゃじゃ〜ん……。
 作者グレイの乗りのよさといったらない。ビスケット・ベアにも言えることだが、製作中は愉快で仕方なかったことだろう。小さな男の子の空想は、スピード感とユーモアを伴ない勢いよく伝えられる。パロディ化された登場人物のおかしさは絶品で、画面に見える小物ひとつひとつにも眺めて見入る愉しみがあった。息子も娘も、クスクス、ニヤニヤ楽しんだ模様。コマーシャリズム漬けの子どもの世界も、こうやって絵本になるとまた魅力が倍増するから不思議である。男の子のクリスマス・ギフトにいいなあ……と、さっそく何人かの笑顔を思い浮かべた。
 トラクションマンには着替えのできる衣装がいっしょに付いているのだが、これにも注目を。トータルなセットになると、子ども心はまた揺さぶられてしまうのだ。娘は各場面でお色直しをして登場するトラクションマンに目が釘付けだった。
 後半のおちゃめなずっこけスーパー・ヒーローぶりは、架空のフィギュアにして目の前に実在するかのような魅力をたっぷり漂わせている。作者は小学校教師でもある。さすが! この視点の鋭さには、すんなり納得がいく。読んだ翌日息子から、「ねえ、トラクションマンって、日本語で出てるの?」と聞かれたので、まだと答えると、「じゃあ、ママが日本語で出したら?」のアドバイス。そうねえ、挑戦してみようか。(asukab)

Traction Man Is Here! (Boston Globe-Horn Book Awards (Awards))

Traction Man Is Here! (Boston Globe-Horn Book Awards (Awards))