自分だけの色を探すカメレオンとおとぎ話のキノコたち

 この秋、どうしても書き留めておきたかった絵本がある。それは、『じぶんだけのいろ―いろいろさがしたカメレオンのはなし』。理由は、キノコにある。もちろんレオ・レオニ作品の中で1番のお気に入りということもある。でも、1番はキノコから受けた衝撃だった。作品最後のページを飾る「赤に白い水玉のキノコ」の実物を目の前で見てしまうと、誰だってその不思議な姿について書かずにはいられないのではないか。
 まず最初に、お気に入りの理由を挙げておこう。カメレオンの愛くるしさ、色の美しさ、変化のおもしろさ、自然の豊かさ――つまり、魅力的なキャラクター、目を引くイラスト、軽快なテンポで進む展開、作品全体を包む安堵感である。
 版画の発色が鮮やかなので、行く先々で体の色を変えるカメレオンにはどんどん引き込まれる。カメレオン本人は、変化自体を嘆いているというのに。不覚にも紅葉によって体の色が変わってしまうページは、悲しさ、儚さが感じられると同時に、皮肉にも読み手にとっては七変化のエンタテインメント絶頂になる。自分だけの「色」が欲しいカメレオンは、どうするのだろう。悲しい身の上のカメレオンに、幸せは訪れるのか。自分さがしの旅は、キノコの上で終りを迎える。
 「赤に白い水玉模様のキノコ」は、実際に存在するのだった。先週、公園で開かれたお誕生パーティに参加した際、しっとり濡れた草地の中に、このキノコたちがニョキニョキと頭をもたげていた。息子が2つ摘み、わたしに手渡そうと接近してきたときは目を疑った。まるでプラスチックかゴム製のように見える。スプレーペイントで吹き付けたような赤に、ボツボツとした象牙色の点が振りかけられたように散らばっていた。かさの直径は、10〜12センチぐらい。ぽっくり、もっちり、かなり丸みをおびた山型だ。石づきは、どっしりと太い。目が釘付けだったことは言うまでもない。人工的なリアルさを放ちながら息子の手のひらの上でもっこりと座る姿は、何と言うか、おもちゃそのものだった。「おとぎ話の中のキノコだと思っていたのに、本物ー?」と思わず大きな声を上げてしまう。舞台の仕事に関わっているという夫妻が、「まるで演劇の小道具みたいでしょ?」と、かたわらで笑っていた。
 夢の世界のものと思っていたものが目の前に生きているとは、奇怪で怪奇で不思議である。このとき思い出したイラストが、赤に白い水玉模様の、レオ・レオニのカメレオンだった。この週末、キノコの話をしながら、息子といっしょに絵本を開いた。(asukab)

  • 色の変化に魅せられて

A Color of His Own

A Color of His Own