わたしの知らない懐かしの日本

 子どもたちに昔の日本を知って欲しいと思い、『Kamishibai Man』(邦訳『紙しばい屋さん』)を読んだ。わたし自身、紙芝居のおじさんは見たことがない。知らないのに「懐かしい」と表現するのはおかしいけれど、「紙芝居のおじさん」ってたぶん全国的に形容詞「懐かしい」に当てはまる戦後昭和のイメージなんじゃないか。
 その昔、紙芝居のおじさんとして活躍したじいちゃんは、今ふたたび紙芝居をしてみようと道具を調えた。ばあちゃんは、手作りの駄菓子を用意する。自転車で昔と同じ道を進むじいちゃんは驚いた。街並みがまったく変わっている。昔の面影はどこにも見えない。それでもじいちゃんは1人、慣れ親しんだ場所で紙芝居を始める。すると時はいつの間にか、じいちゃんの若い頃に戻っていた。

 絵本は紙芝居の興盛、衰退を背景に、そこに関わった人々の姿を静かに描く。時代の潮流に乗って変遷した戦後昭和がそこにあり、体験してもいないのに引き込まれる郷愁を感じた。最後の2ページは涙のため、息子に読んでもらう。アレン・セイの作品は地味なのだが、心に染み入る深さを持ち合わせる。海外在住という自分の置かれた状況がそうさせるのかもしれないが、『ISBN:4593504163:title』のときもそうだった。

 巻末に紙芝居の歴史について短い解説がつく。本書がこちらで高く評価されている理由は、日本の紙芝居文化を紹介すると同時に、テレビ文化へのやんわりとした風刺が生きているからだと思った。(asukab)
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紙しばい屋さん

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