キルトが示す生きる道

 「真実に裏付けられた作品は、強い」とは、祖母の言葉。『Show Way (Newbery Honor Book)』を息子と読み、その一言を思い出した。本書は、米国南部に伝わるキルトの意義を語る一大ドキュメンタリー絵本である。キルト作りに携わった作者一家8世代にわたる女性たちの生きざまを織り込みながら、背景となる史実も同時に紹介する。
 キルトには、家族やコミュニティーの思い出を針にたくして記録する役割がある。でも、作者の家に伝わるキルトは普通の南部キルトではない。それは、「道を示す」キルト。アフリカ系コミュニティーにキルト作りの伝統があることは知っていたのだが、一針一針縫われた星や月、道、ログキャビン、十字路、雁の飛んでいく方向の形が、プランテーションから逃亡するための地図として機能していた――、そんな働きを持ったキルトがあるとは知らなかった。生き延びる道をたどる目印が、それぞれを象徴する形となり示されているのだ。ページには奴隷売買告知の新聞記事がコラージュとして使用され、生々しく過去を再現する。一針に自由への渇望がどれほどこめられていたか、命の重さに値するキルトの存在を思うだけで震えがきた。
 ナレーターは作者自身である。6世代前のおばあさんが7歳のときのこと――。売られた先のサウス・キャロライナで、北部への逃げ道を示すキルトの縫い方をこっそり教えてもらった。その後、キルト作りは代々娘に伝えられ、北軍勝利で奴隷制度が撤廃された後も伝統として継承されていく。作者の母親は公民権運動の際、自由への道を象徴するキルトの一部を服に縫い付けて行進に参加した。
 キルトに込められた意味を振り返るだけでも、米国史がよみがえる力強く美しい絵本である。同時に家族の絆も描かれ、これもやっぱり涙なしでは読めず。最後は息子の代読になった。布、新聞記事、新聞挿し絵、写真、水彩を交えたカラフルなアートが、ダイナミックに史実を伝えている。(asukab)

Show Way (Newbery Honor Book)

Show Way (Newbery Honor Book)