ウィリアムズさんの回顧録

 『Mr. Williams』は図書館で見かけ、表紙が誘って放さない絵本だった。友人J.W.ウィリアムズさんの少年時代の話を、作者が聞き書きして絵本化した作品である。彼の飾らない口調は、それだけで読者との距離を一気に縮める力を持ち合わせる。
 ウィリアムズさんは、ルイジアナ州アルカディア生まれ。少年期を振り返り、思い出すことをわかりやすく淡々と語っていく。きっと笑顔を交えながら。両親と6人兄弟、5人姉妹、牛、ぶた、にわとり、七面鳥、犬、猫、4頭のロバ、1頭の馬に囲まれた日々は、不透明水彩による渋いイラストでノスタルジックに描かれる。家族みんなが心をひとつにして農作業に従事する姿には、昔の生活の一体感、安堵感、充足感がいっぱい。春の土おこし・種まきに始まり、夏の釣り、綿花収穫、秋の収穫、冬のクリスマス……と、けっして裕福ではなかったけれど、子どもたちみんなが手伝いをして、いつも自然とともにあった生活は豊かだったことが記されている。
 学校は、冬季に通っていた。約8キロの片道を登校する間、白人の車に追いかけられ走って逃げる。ウィリアムズさんは、白人が怖くて仕方なかったそうだ。息子に理由を聞くと「だって、白人は意地悪なことするから」との答え。そういう時代だったんだよね。彼は1929年2月28日生まれで、奇しくもマーティン・ルーサー・キングJr.と同い年。公民権運動までは、まだ程遠い少年期だった。
 存在感のあるイラストは、何かの象徴のように昔を回想する。まったくの他人であるウィリアムズさんの人柄は、不思議なくらい絵本を通して深く伝わってきた。
 最後にクリスマスを祝う場面があるので、今の時期に読むのもいいかもしれない。南部の生活の香りに満ちた絵本。何気ないけれど、大切にしたい。(asukab)

Mr. Williams

Mr. Williams