ワンワンサンタわん、キャンキャンクロースグルル

 クリスマス・イブの夜は、何かしら魔法がかっている。それは世界中の子どもたちが遠い夜空の誰かに向かって、夢見心地の願いを放っているから? 不思議な気配を人一倍、いや犬一倍強く感じとったのは、1匹の小さな白い犬だった。『サイレントナイト*1には、白犬くんの体験したイブが表現力豊かな鳴き声を通して語られている。手書きで重ねた鳴き声を「視覚」で目にするだけで、たとえ犬の習性を知らなくても、いかに今宵がドラマチックであったか――実は、抱腹絶倒――理解できるというものだろう。もちろん、犬語を理解する人にはたまらなく含蓄に富んだ内容である。ページをめくれば狂おしい鳴き声とコマ割りの鉛筆線画が、たちまち愛しさと笑いに満ちた夜に案内してくれる。
 イブの夜「う〜」……静けさを破る鳴き声「キャン、キャン、キャン」……大きな袋をかかえ家に忍び込もうとしているのは「キャン、キャン、キャン、わん!」……。どうしてそんなに吠え立てなければならないのか、家の人には何もわからない。でも、「グルルルルルル……わん!
 英語でも読んでみたけれど、『いぬのマーサがでんわをしたら』と同じように、日本語のほうが断然笑える作品だった。懸命に吠え立てる白犬くんとぽかんと何も理解できない家族のコントラストが、笑劇調の「間」を生み出している。犬の体験を知ってしまったからには、うちの愛犬スクーターもこんな気持ちなのかもしれないと思えてきて、鳴き声を耳にするだけで笑いの涙がこみ上げてくるのだった。
 巻末には、赤い布切れのおまけが付く。これが何を意味するのかは、読んでからのお楽しみ。娘は布の肌触りが忘れられないらしく、読むたびに触って確かめクリスマスに想いを寄せていた。
 日本語の鳴き声は作者による手書きということで、温かいハートが感じられる。犬を知りえた作者ならではの作品は、うちではトップ10に入るクリスマス絵本。クリーム色の地にサンタさんの赤が映える、おかしくてスタイリッシュな絵本である。(asukab)

サイレントナイト

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