創造について

 嵐、嵐。外は風雨の嵐で、スクーター(犬)がおびえている。これだけひゅーひゅー、ぼたぼたと音が騒げば、家の中で丸くなっていたい気持ちもよくわかる。外に出かける気持ちにはなれないよね。
 ロジャーさんのブログに、米児童書出版界を揺るがした事件――というより、カタカタぐらいの微震かな――についての記事があった。好きな作家が関るできごとなので、むさぼるように読む。
 今年4月書店に並ぶはずだった絵本『A Snake Is Totally Tail』の発行差し止めを決めたのは、同著の作者で出版社も経営するHarriet Ziefert氏*1。理由は、Judi Barrett氏*2による同名絵本(1983年)に内容が酷似しているからだった。頭韻法を使ったゆかいな動物の詩作品23行のうち、12行がまったく同じ表現だったという。
 関係者が口を揃えて「剽窃でない」と言い切る理由はたくさんある。まず、故意に同じ内容を含みながら出版するほど作者はおろかでないし、Ziefert氏は自信を持って作品解説をしていた。詩はどちらかと言えば共同制作。担当画家やご主人、9歳になる孫といっしょに、50匹の動物の中からぴったりの副詞を抽出していったそうだ。
 考えられる原因としては、どこかで読んだ記憶が忘却の彼方で薄れてしまい、こういう結果になったとか。あるいは、誰もが抱きそうな発想だったとか。自営の出版社なので、たくさんの目が届かなかったことも不運だった。前作は見たこともないというのに、因果とは不思議。Ziefert氏は驚き、衝撃を受けるが、出版停止の処置を取り公的に間違いを正した。
 こういうことって、とくに「詩」のような芸術媒体にはあることなんだろうなあ。記事中、同様の剽窃まがい事件は大きな出版社でもあったと言及されていた。それでさっそくBarrett版(すでに絶版)を図書館に予約。新作のほうがすてきなイラストで、本音を言えばZiefert版、手にしてみたかった。彼女の言葉遊び絵本って、粋で洒落ているもの。
 創造について。内田先生は、

創造というのは自分が入力した覚えのない情報が出力されてくる経験のことである。それは言語的には自分が何を言っているのかわからないときに自分が語る言葉を聴くというしかたで経験される (2006年2月3日「内田樹の研究室」)

と述べる。奇しくも同一の創造をした作家のことを知り、オリジナリティーについて再度考えるきっかけを与えてもらった。(asukab)