The Elements of Style 視点を変えて眺めてみれば

 昨秋の発行以来、主人の誕生プレゼント第一候補だった書籍『The Elements of Style Illustrated』は、学生・社会人必携の英語語法書『The Elements of Style, Fourth Edition』にイラストが添えられた異色のアートブックである。もちろん内容そのものは文法参考書なのだが、例文付随のイラストにイマジネーションが掻き立てられ、わたしだったら参考どころか夢想に没頭してしまいそうな体裁なのだ。無機質な秩序に支配される文法の世界がマイラ・カルマン*1による59枚のイラストで演出されると、たちまち都会の洒脱と小粋さに包まれる。
 初版はコーネル大学W.ストランク教授による私費版(1919年)。38年後に当時の教え子だったE.B.ホワイトが出版社からの依頼で再編し、刊行の運びとなった。以来40年以上、のべ1千万に上る学習者に利用されてきた事実は、米国における本書の地位を物語っているだろう。ニューヨーカー誌記者で、『Charlotte's Web (Trophy Newbery)』(邦訳『シャーロットのおくりもの』)や『Stuart Little』(邦訳『スチュアートの大ぼうけん』)の作者でもあるホワイトの功績は、豊かで正しい英語を支持し続けた働きにもあった。
 そこに今回のカルマン・イラスト版である。大学図書館で埃にまみれていたであろう名著が、初版から86年を経て華やかに生まれ変わるとは誰が想像しただろう。凛としたストランク、ホワイトの執筆、たとえば例文「Bread and butter was all she served.」がカルマンの洗練された絵画と共に表れると、それはそこから物語が始まるかのような広がりを持つ1文になるのだった。
 それにしてもイラストはさて置き、日本語にこのような必読書と言われる文法・語法書があるだろうか。型を持たない文化の国、米国がこと国語(英語)に関しては襟を正して型を示す一方で、型の文化を持つ日本が国語(日本語)に関して曖昧をよしとする対照がおもしろい。
 主人のためにと思っていたのだが、彼はこの本のこと――イラスト版ではない元々の本――を知っていた。それはそうだろう。国民的必読書なんだもの。ということで、こちらは息子への贈り物に。でも、息子もわたしと同様、イラストと戯れそうな性格だったりする。
 赤い表紙の2つの点はコロン。裏表紙にはセミコロンがウィンクしている。(asukab)
amazon:Maira Kalman

The Elements of Style Illustrated

The Elements of Style Illustrated