「きよしこのよる」が生まれた夜

 季節外れのクリスマス絵本レビュー、その3。
 聖歌「きよしこのよる」の由来を聞いたとき、これは心あたたまるお話だと感動した覚えがある。この冬、清らかな夜をたたえた物語を絵本『Silent Night, Holy Night』で味わい、心が洗われるようだった。史実を的確に伝える語りと風格のある写実的なイラストが、あるクリスマスのできごとを厳かに美しく伝えてくれた。
 19世紀はじめ、オーストリアザルツブルグに近いオーベンドルフ村はナポレオンによるヨーロッパ支配のため戦場となり、荒廃しきっていた。若き牧師ジョセフ・モーは荒んだ人々の心に希望を与えようとクリスマス用に詩を書き、教会オルガン奏者フランツ・ザビエル・グルーバーに作曲を頼んだ。クリスマス当日になっても教会のオルガンは壊れたまま。礼拝ではモーがギターを爪弾き、世界で最初の「きよしこのよる」が歌われた。
 「きよしこのよる」は第1次世界大戦中、休戦して歌われたクリスマス・キャロルでもある。穏やかでやさしいメロディーを口ずさめば、私利私欲は消え、この世に生まれたひとりの幼子に気持ちが注がれていく。そんなできごとがあったのだと1年に1度でも思い出せるのなら、この絵本の使命は達成させられたことになる。(asukab)

Silent Night, Holy Night

Silent Night, Holy Night