美術館訪問の前に

 草の香りが心地よい季節、揺れる木洩れ日に包まれると思わず時間に取り残された気持ちになる。夏の開放感がほんの一歩手前までやってきて、学年末試験のシーズンだというのに、子どもたちの笑い声は1年のうちで最高のテンションを記録しているかもしれない。あと1か月少しで夏休み。
 試験が終わるとどこのクラスもみな、年度最後の思い出行事としてフィールド・トリップに繰り出す。美術館に足を運ぶクラスもあるだろうから、そんなときに読みたいなと思った1冊が『Museum Trip』だった。
 前作『The Red Book (Caldecott Honor Book)*1の印象的な赤と異なり、今度は白に覆われた表紙である。「白」といっても煌くような白でなく、しんと静まりかえった美術館の時間と空気を表す落ち着いた「白」。表紙を見てすぐさま美術館に飛び込んでしまった自分だから、文字も音もないページをめくるとやはりリーマンの描く不思議な空間に引き込まれた。
 同じ文字なしの展開でも、両者に流れている空気はまったく異なる。赤い本には相手と引き合おうとする温かい空気、この白い本には未知を探ろうとする神秘的な空気。後者は、少し息のつまる感覚もあった。見学グループからはぐれてしまった男の子が館内の「迷宮」に足を踏み入れてしまう体験物語なので、おすまし顔した展示作品の一見冷淡なイメージや、迷って心細くなる不安、不思議な迷宮に入り込む好奇心など、息を凝らして見つめる描写がゆっくりと続くからかもしれない。
 男の子の受け取ったメダルについて息子に確かめたいと思いながら、時間がまったくない。リトル・リーグの試合、宿題、試験やら何やらで、長いはずの夕べは気が付くとすでに午後9時を回っている。きっとまた赤い本と同様、「ちょっと、よくわからないな」と呟くのだろう。でも、よくわからないことが大事なのだ、と素直に納得できるのもこの絵本の魅力なんだろうなあ。最後のページを眺め、作者の意図に思いを巡らせた。(asukab)

Museum Trip

Museum Trip