たからもの The Treasure

 『たからもの』は、英国に古くから伝わる宝探しのお話です。宝探しと言っても、それは「物」ではなく「心」のたからものに通じています。絵本に描かれる「たからもの」とはいったい何なのか。貧しいひとりの男アイザックの見た夢が、たからものを求めた旅に誘います。
 「都へゆき、宮殿の橋のしたで、たからものを さがしなさい」――。夢の中でアイザックは、こんなお告げを耳にしました。でも、「あれは ただの ゆめだ」と彼は気にもとめません。それでも、その後、何度も同じ夢を見たので、「もしかしたら ほんとうかもしれない」と、その気になり旅に出るのでした。
 長い道のりを歩き、森を抜け、山を越え、ようやく都にたどりつきました。さっそく宮殿の橋の下に行きましたが、何人もの衛兵が警固にあたっています。アイザックはそこで、衛兵隊長に話しかけられました。
 人生、振り返ってみれば、ターニングポイントにつながる出会いがいくつかあるものです。宮殿の橋で出会った衛兵隊長との出会いはアイザックにとり、そんな大切な意味を持ちました。彼から聞いた話が現実のものとなり、アイザックの後の人生を大きく変えたのですから。
 最後に「祈りの家」に刻まれた一言が物語の箴言にも思え、黙想するひとときを与えてくれました。「ちかくにあるものを みつけるために、とおくまで たびを しなければならないこともある」――。人生とは、こういうものなのだろうと、日常では見えないことを伝えてもらったような気がしました。ひとつの道のりを乗り越え最後に振り返ると、近くにあるものが明瞭に見えてくる。人の生きる道とは、時間を経てこそ視界が開けるものなのだとあらためて確認できました。(asukab)

たからもの

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