もぐらのバイオリン

 アート絵本と同じように、音楽をテーマとする絵本に目がありません。自分自身、歌うこと、弾くこと、聴くこと、どれもが好きな領域です。ピアノを習っていたことが手伝い、とりわけクラシック音楽といえば好んでピアノ曲を聴いていました。ところが、息子がバイオリンを始めて以来、その傾向は変わります。弦楽器の甘い音色は、ピアノの澄んだ音と異なる艶を持ち、わたしを魅了しました。『もぐらのバイオリン (ポプラせかいの絵本)』で夢見心地にバイオリンを奏でるもぐらの姿を目にしたとき、優しい調べが流れてくるような錯覚を抱きました。
 もぐらは、地面の下でひとり暮らし。テレビで観たバイオリン演奏に感激し、自分も弾いてみようと思い立ちました。さっそく注文したバイオリンを弾いてみると、出てきた音は「きいきいと ひっかくような ひどい おと」ばかり。でも、何度も繰り返し弾き、ひと月たつ頃にはドレミファソラシドをマスターしました。年月が過ぎ、毎日バイオリンとともに過ごしたもぐらは、上手にバイオリンが弾けるようになりました。「Practice makes perfect.(習うより慣れろ)」ですね。
 イラストの工夫が、なかなか洒落ています。地中と外界を同時進行で示す二層構成が、音楽の魅力を深く伝えているからです。加えて、もうひとつの秘密は「種」。上下の世界をつなぐすてきな種が、もぐらがバイオリンと出会う前に蒔かれていました。中表紙には、リスが1匹。もぐらの家の真上で、どんぐりを手にしています。このリスの置いていったどんぐりが、根を伸ばし、芽を出し、大きな樫の木へと成長していくのですが、この過程がもぐらのバイオリンの上達とぴったり呼応していて、なるほどねと思わされました。不思議なことに樫の木は、バイオリンの音色を世界に告げる魔法がかった木でもあったのです。
 外の世界で起きていたことは、夢ではなく現実のお話でしょう。息子もわたしもそう思いました。音楽の果てしなく深い「力」を称える絵本です。ひとりぼっちの地中で、音楽という幸せを見つけたもぐらに共感できます。(asukab)

もぐらのバイオリン (ポプラせかいの絵本)

もぐらのバイオリン (ポプラせかいの絵本)

 本日は、今年最後のE中オーケストラ定期演奏会。ジュニア・オーケストラ次席奏者として第2バイオリンのソロパートを担当。ソリスト3人は、生徒投票による6年生の優秀賞をそのまま受賞した。おめでとう!