Taj Mahal タージ・マハールの伝説

 『Taj Mahal』は、タージ・マハール建設の背景を語る、豪華な絵本です。
 栄華を極めたムガール帝国の王シャー・ジャハン(1592-1666)が最愛の妻ムンタズ・マハールの死を嘆き建てたという宮殿には、二人の愛を語るにふさわしいエピソードが詠われています。夫を慕い戦地にまでお供したというムンタズの強い気持ちは、彼女の死因を知りますます胸を突きました。身ごもった体で旅を続けた結果、ムンタズは産後の衰弱のため39歳で亡くなります。出産を二度体験しているわたしにとり、これはとてつもなく自分とかけ離れた精神構造だと思わずにはいられませんでした。多産であったであろう当時、体をそこまで酷使する理由を「愛」の一言で片付けてしまう――本人にはそんな意識は毛頭なかったのでしょうが――純粋さというか、極限というか。
 息子と読み始めましたが、ラブストーリーと知り、彼は瞬く間に興味を失いました。王子と少女の出会いはそれぞれ15歳と14歳だったというのに。しかし、これは確かに大人が喜ぶ絵本です。丹精に描き上げられたイラストの美しいことといったらありません。まるで、当時のムガール帝国に足を踏み入れ、優雅な宮廷生活を目の当たりにしているかのような品格を携えた描写です。各ページには黄金色で植物や動物などの連続模様が枠として縁取られ、王宮の物語に相応しい、夢のような場面が続きます。人物の描かれ方は時代に合わせ、当時の描写法そのもので緻密です。インド出身の画家は英国で絵画を修め、絵本はこれがデビュー作だそう。写真やデジタル・メディアも手がけ、モダンアートも操る多彩なアーティストと知り、そのイメージの差異に一瞬、くらりと目まいがしました。
 雄大なアジアの歴史をひも解きロマンに浸る――。そんなときに開きたい、華やかで美しい絵本です。巻末に用語、背景の解説が付きます。(asukab)
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  • 何はともあれ、アートにため息

Taj Mahal

Taj Mahal