ウェブ時代をゆく――オプティミズムの考察 子どものアートと文字習得から

 『ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)』を贈っていただきながら*1、感想をずっと書かずにいました。新著『ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!』も発売となり、遅ればせながらここに記そうと思います。
 前著で、はてな界隈を賑わせていたキーワードは「オプティミズム」「好きを貫く」でした。P138にアメリカの小学校での作文指導が例として挙げられ、こんな風に疑問が投げかけられています。

……相手のよいところを見つけ、見つけたら褒め、批判するにしても建設的に行うことを、小さい頃から子供たちは体系的に叩き込まれる。これは人生を、特に「けものみち」で生きていくうえでとても大切なことだが、そういう能力を磨くトレーニングを日本ではあまりしないのだろうか。「ある対象の悪いところを探す能力」を持った大人が日本社会では幅を利かせすぎていて、知らず知らずのうちにその影響を受けた若い人たちの思考回路がネガティブになっているのだろうか。――梅田望夫著『ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)』P138

 この疑問への答えとして自分が思い描いた事例は子どものアート指導方法についてでした。型の文化を基盤とする日本と、未知の体験を重ね試行錯誤の過程に重きを置くアメリカのやり方の違いです。

…… 日本風の発想 アメリカ風の発想
活動前 例として見本(型・お手本)を見せる。(それとなくゴールの設定をしている。) 素材に馴染ませて遊ばせる。何を作ってもいいと強調する。
活動中 何人かの子どもたちは見本どおりに作りたがる。見本のようにできないと、フラストレーションをためる子どもがいる。思い描いたとおりにできないと、途中で投げ出すこともある。 好きなように遊びながら作る。他人と比べることがあまりない。
作品 きれいに仕上がる作品が多い。お手本と同じものを作った達成感がある。 作品として形にならない場合が多い。結果より過程重視。この作業を繰り返す中から、作品としての魅力が生まれてくる。

 上記は、プレスクールから幼稚園にかけての年代で、実際に日米の教室で子どもたちに触れてみての考察です。今では日本でも自由な指導が主流になりつつあるので、この年代で両国の思考に差はそれほどないと思われますが、就学を迎えると大きな違いが出てきます。きっかけは、文字の習得です。

…… 日本 アメリ
文字の種類 ひらがな、カタカナ、漢字 アルファベット
文字の数 各50音+1945字 大文字、小文字各26字
習得方法 お手本を見ながら書き取り、音読。文字それぞれに意味があるので、書き順は大事。 お手本を見ながら書き取り、フォニックス習得。文字に書き順の規則はあるが緩い。結果さえ判別できれば、過程はある程度自由。

 日本語は書き順に決まりがあることから、「間違えてはいけない」「お手本どおりに書く」習慣が自然と身についていきます。この際の忍耐力は、努力が必要とされる他分野で大いに評価されます。しかし、お手本、つまり他人と比べる習性も同時に身につくので、どうしても自他の「違い=間違い」に目がいく傾向が生まれてしまうようです。
 小学校低学年でアルファベットとフォニックスを習得すると英語はとにかく読書三昧で文章力、語彙力、思考力を付けていきます。一方、日本ではお手本どおりに書く漢字学習が高校まで続きます。どちらに優劣があると言うのではなく、この習慣から必然的に文化性の相異が生じます。
 極める人間は日米どちらの道を通っても同じゴールにたどり着くのだと思いますが、文化の好みというのはどうしても個人の好みであり、積極志向にも向き、不向きが生まれるのではないかと感じました。柔軟なバランス感覚が身に付いていたら、どちらの思考でも自由に切り替えられるのでしょう。
 思考の柔らかさやオプティミズムは、何もないところから物を作り出すアメリカの風土の方が生まれ易いのかもしれません。しかし、日本の型の文化からこの柔らかい思考が生み出せたら、この強さに勝るものはないとも思われます。
 今回は自分の知る現場から、日米対比の形式で書いてみました。漢字文化の源・中国はどうなのか、大きなアジアの視点が抜けているので、見えていない部分が多いかもしれません。
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ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

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ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!

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