リスとお月さま

 先週、お気に入りのチーズクラッカーがセール品になっていた。多めに買込みほくそ笑んだのだが、今週はすで元の値段に戻っていて、「もう少し多く買っておけばよかった」と毎度の後悔。チーズって、美味しいから。ヨーロッパ人のようにたくさんの種類は知らないけれど、ひとかけら添えるだけで味にぐんと幅が出る。
 それで無性に読みたくなったのが『リスとお月さま』だった。この表紙のお月さまが何ものなのかは、表紙の見返しを見ればすぐにわかるし、冒頭の話題で正体が明かされたのも同然。ぷーんとチーズの香りが漂ってきそうな異色の絵本は、リスの心理描写を巧みに挿入してユーモアいっぱいの写実が魅力的だ。
 月が落ちてきたのだと思い込んだリスは、思い悩む。「だれかがお月さまをとろうとして、おとしちゃったのかな? ぼくのところにあるのが みつかったら…… どろぼうだとおもわれて、つかまって ろうやにいれられちゃうよ!」――で、続く監獄シーンがなかなかユニークで、この絵本が一線を画する極めつけの光景になっている。写実と超現実的なユーモアがドッキングすると、こんな感じということか。ハエやネズミが群がる場面はグロテスクだが、さらりと現実の側面を表現しているわけでもある。
 子どもたちは、監獄シーンを喜んだ。これだけ画力があったら、思うままに絵本が作れるのだろうなあ、羨ましい。リスちゃんシリーズは昨年本国ドイツで2冊目が出たようなので、早く英訳されないかと心待ちにしている。ドイツ語で楽しんでみるのも、一興かな。(asukab)
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リスとお月さま

リスとお月さま

 日本語版について。奥付に作者名が原語で表記されていないので、アマゾンでもドイツ語表記の名前が出てこない。訳者が作者になっている。「ゼバスティアン」の「ゼ」は誤記のような気がするけれど……。