クリスマスものがたり

 昨夕は子どもたちにせがまれて、パンプキン・パイを2つ焼きました。ということは、すでに収穫感謝の季節を迎えているのですね。七面鳥受難の日は、もう来週に迫っています。こうしてアドベントを迎え、クリスマスの準備に突入……。昨年の流れ方にも増して時間が加速され、あっという間の師走となることは言うまでもありません。そこで絵本手帖も、クリスマスの準備を――。
 色の魔術師ブライアン・ワイルドスミスの『クリスマスものがたり』(原書『A Christmas Story』)は、気高さと素朴さが融合した、自分がもっとも理想とする聖夜を描いています。子どもと動物……つまり、小さなものたちを主人公とした、清らかで厳かなできごとを伝える視点が最大の魅了と言えるでしょう。
 それはすでに、物語の設定から聖なる気持ちにうっとり浸ってしまったほどです。ヨセフとマリアの旅のお供をした動物はロバでした。絵本は、この母さんロバを慕って、赤ちゃんロバと赤ちゃんロバのお世話をしている少女レベッカベツレヘムを目ざす旅を描くのです。それともう1匹、小さな誰かさんも、あとを追いかけるのですけれど。

むかしむかし、ナザレという町にロバのあかちゃんが生まれました。
ロバのあかちゃんが、生まれてから九か月たったとき、お母さんロバは、かいぬしのマリアとヨゼフのおともをして、長いたびに出ることになりました。
マリアとヨゼフは、おとなりのレベッカにたのんで、るすの間、あかちゃんロバのせわをしてもうらうことにしました。
それでもあかちゃんロバは、お母さんがいないので、かなしくて、食べものものどを通りませんでした。それでレベッカは、おべんとうと水のよういをして、あかちゃんロバに、いっしょにお母さんロバを見つけにいこうね、といってたびに出ました。……

 「マリアとヨゼフとロバを見ませんでしたか?」――こう尋ね歩く間、レベッカとロバのあかちゃんは、数々のクリスマスの奇跡に遭遇します。読者はと言えば、金髪の女の子が小さなロバを引いて旅すること自体、夢想なのだとわかっていても、子どもの目の高さと動物を思いやる気持ちに引きこまれ、清らかな気持ちで聖地巡礼の旅に誘われています。
 東方の博士、羊飼い、天使たちとともに馬小屋で、輝く星に見守られながら迎えるクリスマスの美しいこと。ベツレヘムは雪の降らない乾いた土地のはずなのですが、雪の結晶が花びらのように舞う夜の荘厳さに、ただただひれ伏すしかありませんでした。やさしい水彩に金箔の星が効果的に映し出され、見事としか言いようがありません。砂糖ごろもをまぶしたかのような淡雪の光景は一瞬、日本画のようにも見えます。
 物語の帰結も、心惹かれます。二千年前のできごとを描いたにもかかわらず、子どものすぐかたわらでクリスマスが実感できるのです。降誕を描く絵本は多くありますが、古典的でかつ子どもの視点を賛美する作品は、ブライアン・ワイルドスミスならではと言えるかもしれません。
 邦訳の書影がないので、英語版で。(asukab)
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A Christmas Story

A Christmas Story