青い鳥
今日も、雪。ぼたん雪を眺めながら、部屋にたたずむ時間に推され『青い鳥 (世界の名作 (1))』を手にした。
クリスマスの前の晩。貧しいきこりの家に、クリスマスらしさは何ひとつ存在しない。いつもと同じにほんの少しの黒パンとスープだけのさびしい食事をすませ、チルチルとミチルはベッドに入った。
「サンタクロースの おじさん 来て くれるかしら?」ミチルが いいました。
「だめだよ。だってね、母さんがね、サンタクロースの おじさんに 来て くださいって たのみに 町に 行けなかったんだって。でも 来年は 来て くれるよ きっと!」
ふたりは 来年を たのしみに ねむりました。
外は 雪に なりました。
冷たくさびしいクリスマスから始まる童話は、もともと6幕12場という長い夢幻劇だった。イブの晩、目を覚ましたチルチルとミチルは美しい光の女神に出会い、病気の女の子を慰めるために青い鳥を探しに出かける。「どんなものの話もわかる不思議な帽子」を携え、思い出の国、夜の国、深い森、死の国、しあわせの御殿、未来の国を、お供たちと彷徨いながら。神秘的なファンタジーの根底に流れるテーマはただひとつ、「青い鳥」に象徴される「真の幸福」探しである。
巻末の滑川道夫氏による解説が卓越している。少し長くなるけれど引用。
ヨーロッパでは古くから、「青」は落ち着きのある、静かな深い泉のような人間の知恵の色だとされています。肉眼では見えないものごとや、人生の本質を見ぬくのが、知恵の開かれた心の目です。その目でなければ、「青い鳥」が見えないのです。
「青い鳥」は、本当の「幸福」を象徴しています。本当の「幸福」は、肉眼では見えないので、開かれた心の知恵でとらえるしかなかったのです。本当の「幸福」は、富・名誉・権力などの、肉眼で見えるはなやかな生活の中にはなかったのです。真の幸福を見る心の目が開けてみると、「青い鳥」は自分たちの身近な生活の中に発見されるのです。
ただこの幸福論は、自己にとどまるだけでは無意味だと後半で喝破される。「自分の家の中に、本当のしあわせがあって、いいお父さんやお母さんをもっている今の私の幸福がよくわかりました」といった現状満足にとどまってしまうのでは、真の幸福にたどり着けないという指摘である。ここでは、若月紫蘭訳「青い鳥」を読んだ小学4年生の感想が掲載され、非常に興味深い。
メーテルリンクのキリスト教精神、人生哲学が貫かれた童話劇は、「さまざまな未知の国を、巡礼のように道を求めて生きる人生を象徴的に表した」。生涯を通してわたし自身、これからも幾度となく読みかえすだろう。
いわさきちひろの「青」が深く胸に染みる一冊。(asukab)
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