どうして?

 版画風の表紙に魅せられ手にした『どうして?』は、圧倒的なイラストレーションの力でけん引する絵本です。
 真っ暗な世界には、あひると赤いぬいぐるみだけ。冒頭は、赤と黒のみの描写です。色で引きつけるパンチのあるイメージに、読者はさまざまな行く末を期待せずにはいられません。
 あひるは灰色の雲の下、悲しい気持ちで模索を始めました。「どうして、こんなに くらいんだろう?」――。そこに空から雫がポトン。「この しずくは、どこから くるの?」――。体で感じた雫の冷たさをヒントに、あひるは問いかけを続けます。すると、かえるが「ゲロゲロ グワッ、まえをみて、まえを!」――。気がつくと少しずつ、あたりに色が点り、いつの間にか視界が明るく変わり始めていました。
 暗から明へ、哀から楽へ。物語は、絶望から希望への変化を場面を追って描くだけ。でも、迫力いっぱいの黒を基調としたことで単純なトーンにドラマが生まれ、色彩豊かで喜びに満ちた後半がまばゆく生かされていきます。独特の画風は、版画のようにも擦り絵のようにも見える風合い。コンピュータグラフィックスで処理されたミックスメディア風の工夫が、たっぷり妙味をかもしていると言えるでしょう。
 人生の核に触れる絵本は、冴えたイラストレーションと重なり合い、芯の強い、説得力のある仕上がりです。疲れたときにひっそりと開いてみたい作品かもしれません。昔風の温もりのある文字が、懐かしさを誘ってくれます。
amazon:Sarah Verroken

どうして?

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