A Carousel Tale エルンストが帰ってきた!

 春らしい色合いの絵本と思い手にしたら、ワニのエルンストではありませんか! 空想の大好きなエルンストが、"A Carousel Tale"ではどんなクリエイティブ・マインドを披露してくれるのでしょう。
 今回のテーマは、大人だって心が浮き立ってしまう「メリーゴーランド」。手回しオルガンの音色に乗り、木彫りの馬やクマたちが世相など忘れてクルクル回る光景は、自分には遠くからだと宝石が散りばめられた小さなオルゴールのように見えます。そこだけ、ぽっと浮き上がる、光るおとぎの国。悲哀たっぷりの情感にも押されますが、子どもにとって、とんがり帽子の丸テントの中は、終ることのない夢の世界に違いありません。 
 エルンストは、メリーゴーランドの中でもイヌの乗り物が大好きです。体がお日さま色、目がキラキラしていて、おまけにしっぽを振るのですから。でも、このしっぽ、実はねじが少し緩んでいて、ぐらぐら、がたがた不安定に揺れているだけ。それでもエルンストにとっては、とびきりすてきな乗り心地でした。さて、冬が近づき、メリーゴーランドも季節興行を閉じることになります。エルンストは道ばたで、あの大好きなしっぽが外れて落ちているのを見つけました。きちんと閉められたテントにもう戻すことはできないので、なんと冬中、エルンストが壊れてしっぽをお世話することになりました。エルンストはメリーゴーランドのことを思い出しながら、どんなことをして楽しんだと思いますか。
 子ども心の機微を、エルンストとお兄ちゃんのソルの会話を通して巧みに描くお話です。いい、いい。これ、ぜったい娘の好きそうなお話――相づちを打ちながら読む自分がいました。手作り大好き、イマジネーション大好きの子どもたちにぴったりの絵本です。
 コラージュ使いのイラストは、懐かしいクレヴェンの世界そのものです。しばらく少々単調な絵柄に見えていた時期もあったのですが、この絵本ではまた昔のように果てしなく鮮やかでにぎやかな彼女のスタイルを取り戻しています。というか、エルンストの絵本だから、こちゃこちゃと宝物を詰め込んだのでしょうね。
 表紙は、やわらかな春色です。この、しあわせそうなエルンストをご覧ください。イヌのしっぽの飛び出たネジにも、ご注目を。黄色、黄緑の水彩に、軽やかな春の息吹が流れていきます。裏表紙の折り返しに、実際に作者制作のメリーゴーランドが紹介されていました。ほんとうに回るのでしょうか。わたしも娘と作りたい! 春休みのプロジェクトにしたいと思いました。
amazon:Elisa Kleven

A Carousel Tale

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