Otis ぽんこつだからあたたかい

 "Otis"は、たらきもののトラクター、オーティスのお話。農場で活躍した日々はもう昔のことで、今はお役目ごめんの身。でも、自分に取って代わった最新鋭の大型トラクターにもできなかった牛の救出作戦を成功させ、みんなから再び喝采を浴びた。
 チャコールグレーを基調に、くすんだ赤や茶色をほんわかと見せるイラストがノスタルジック。ロングの質感のある画風には、ずっと魅力を感じていた。絵本向きの画家なので、ストーリーに恵まれたらすごくいい作品が生まれると想う。
 それにしても、ぽんこつオーティス。さび付いて納屋の軒下で雨に打たれているトラクターは、ここでもよく目にするので、深く共感してしまった。時代の中で淘汰されるものは、儚い時間が流れている分、あたたかい。かと言ってセンチメンタルに浸り、いつまでも傍らに置いておくわけにもいかないのだけれど。個々の思い出の中でしまわれていく運命、そうして世代が変われば忘れられていく運命――。
 もっと早くレビューを書こうと思っていたのに、この一冊だけが見当たらない。と思っていたら、娘がこっそり部屋で読んでおきっぱなしにしていた。何冊もあるうちからこちらを選んだということは、表紙のオーティスが彼女を誘ったに違いない。
 愛着の湧くものへの郷愁を謳った絵本。
amazon:Loren Long

Otis

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