Nasreen's Secret School アフガニスタンの今 虐げられた女子教育

 アフガニスタンについて。タリバン支配、制圧からカルザイ政権発足まで、政治的な事実を知っていても、人々の暮らしが実際どのようなものかはっきりイメージできずにいた。
 ノンフィクション絵本"Nasreen's Secret School"は、世界規模で活動する児童救済非営利団体グローバル・ファンド・フォー・チルドレンが、作者に連絡を取り出版に至った経緯を持つ。つまり、広く人々に知って欲しいという動機があっての絵本化だった。その「知って欲しい」事実とは――。
 旧ソ連撤退後、内戦状態から急成長したタリバンは、1996年から2001年までアフガニスタン全土に勢力を浸透させた。タリバン支配が始まる以前の様子について前書きに記されていたので引用してみると:

  • 学校教員の70%が女性
  • 医師の40%が女性
  • カブール大学の学生半分が女性

……だった。ところが、周知のとおりタリバン勢力下では:

  • 女子の小学校を含めた就学、大学進学の禁止
  • 女子の家庭外での就労禁止
  • 家人(男子)の付き添いなくして女子は外出禁止
  • 女子の身体すべてを覆うブルカ着用の強制

……となる。
 タリバンは仏像、寺院破壊などを含め文化興隆を否定し、背く者を武力で制圧した。
 しかし、暗黒の時代に希望の光を灯す人々がいたことは救いである。この間、地下活動として「シークレット・スクール」という女子の学校が開かれていた。絵本"Nasreen's Secret School"は小さな女の子ナスリーン(実話なので仮名使用)の日々を、彼女の祖母が語る形で描く。
 父親が突然タリバンに連行され、心配した母親が危険と知りつつ探しに出かける。家に残されたのはナスリーンとおばあちゃんだけ。失語になり笑わなくなったナスリーンを心配するおばあちゃんは、シークレット・スクールの存在を知りナスリーンを入学させた。自分が子どもの頃に受けた教育と同じように孫にも学んで欲しいと願いつつ。タリバンの踏み込みがあっても、コーラン学習なら許されている。急場をしのぎながら、失語のナスリーンは学校で友だちに出会い少しずつ心を開いていった。
 教養を深め、豊かな人間性を追求し始めたナスリーンのもとに、両親はまだ戻っていない。物語は現在進行形のままで終るのだが、ナスリーンの体験から教えられるものは計り知れないほどある。どう解釈し、行動するのかは、読者に委ねられていると言うべきか。
 伝えることで平和に貢献する絵本なので、世界中の子どもたちに読んで欲しい、と願う。
 この作者らしく、文章は非常に明快。簡潔にわかりやすく事実を伝えている。
amazon:Jeanette Winter

Nasreen's Secret School

Nasreen's Secret School