Cloud Tea Monkeys 世界で一番おいしいお茶をどうぞ

 一人娘のタシャは、病気になった母親のかわりに茶摘みに出かけた。日頃から母親の茶摘みに同行していても、作業の経験はまったくなかったタシャ。農園の管理人からは子どもの茶摘みと罵倒され、大人に混じって一人だけ悲しい思いをする。木陰で泣き暮れているところに、仲良しの山ザルたちが集まってきた。いつの間にか眠りに落ちたタシャを残して、サルたちはカゴを持って山に登り始めた……。
 "Cloud Tea Monkeys"は、ヒマラヤ山岳地帯に伝わる民話のひとつという。文章表現が豊かで詩的、同時に人物描写に深みを持ち合わせているので、何気なく読み出した冒頭からしだいに夢中になって朗読(というより音読)していた。そうするうちに家中が物語の調子に引きこまれ、いつの間にかみんなが真剣に耳を傾けていたという展開になり、嬉しい感動を味わう――。「言葉の力」が節々に感じられ、気品にあふれて美しい。同時に、お茶の芳香が漂ってくるような心地よいお話でもあるのだから、それは当然か。
 山に登ったサルたちは世界でも人智の及ばない土地になる茶葉を摘んできて、タシャの手助けをする。ここからのくだりがとてもドラマチックなので、家中みんながしんと聞き入った。お茶の葉の描写、お茶の鑑定家の様子、雲に隠れて見えない山中から採れるという「クラウド・ティー」の言われなど、言葉を追うごとに、身も心もお茶の香りですっかり清められているような錯覚に陥っている、そんな時間が流れていた。
 読後に一言ずつ、一番好きだった箇所を伝えあった。娘はお茶の鑑定家とタシャとのやりとり(「このお茶をどこで摘んだのかね?」と尋ねられる、ちょっと緊張する場面)、主人は鑑定家がタシャの茶葉が特別なことに気づく場面、わたしはお茶の香りの漂う描写すべて、息子は宿題のためここは棄権。
 とくに後半は読んでいて、胸がいっぱいになってきた。茶葉に光る朝露のようなきらめきを湛える物語。こういうお話は、何度読んでもそのたびに心が満たされる。そしてやはり、おいしいお茶をいただきたい気持ちになっていた。
 昔は希少価値だったものが今では一般的に入手できるようになっていると、あとがきで作者らが指摘していた。手に入らないものは、手に入れなくてもいい。クラウド・ティーのような世にも稀なお茶は、夢の中だけに存在して欲しいなどとも願ったりした。
 おもしろかったのが女王さまの敬称。タシャと母親をのぞいて、世界でたった一人クラウド・ティーが味わえるというお方である――the Empress of All the Known World and Other Parts That Have Not Been Discovered Yet――。
 丹精のこもった写実のイラストも、気高い文章と調和していて正解だった。
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Cloud Tea Monkeys

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